うれしいことなんてさ、全然ないわけじゃなくて、逆に私たちが気づかないだけでそこらじゅうに落っこちてて、それに気づけたらきっと私たちの心はあったかくなるんだよ。

「随分とおとめちっくだね、まるで童話とか夢みたいだ」

にこにこ幸村くんは笑う、綺麗な笑顔だった、男の子にしておくには勿体なくて、でもそれを言ったら多分すごく怒られると思う、初めて会ったとき女の子と勘違いしたらすっごく怒ってたから。

「ほんとのことだと思うんだけどなあ?」

私は首を傾げる、私を真似するみたいに幸村くんも首を傾げた、私がにっこり笑うと幸村くんもにっこり笑った。
なんだか鏡みたい、きゃっきゃっはしゃいでピースしてみたり、ウインクしてみたり、ほっぺたを横に引っ張ってみたりしたら幸村くんも全部おんなじようにしてくれた。

「鏡みたいだね」

そう言えば幸村くんはそうだね、と頷く。
本当に私の顔が幸村くんみたいに綺麗だったらもっともーっといいのに、多分今私はむすっとした顔をしてる。

「可愛い顔が台無しだよ」

幸村くんの腕がにゅっと伸びて私のほっぺたをふにふにしてからぺちんっ、とおでこを叩かれた。
痛いよ、と言えば幸村くんはごめんねって困ったように笑うから私は大丈夫だよって言う、幸村くんが安心したみたいに私の頭を撫でて、私が嬉しくて笑う。
私は幸村くんがそばにいてくれる幸せに気づいたから今すっごく幸せなんだよ、と言えば幸村くんが珍しく恥ずかしそうに顔を赤くしてふいとそっぽ向いて消えちゃいそうなくらい小さな声で、俺もだよって言った。
途端に胸がきゅってなってそれからあったかくなって、ありがとうって笑った。