痛いの?そうやって私の頭を撫でるあいつはやけに勘のいい女だった。
雷蔵と歩いていた時も俺がどっちだがわかっているみたいに雷蔵にむかって三郎のお友達ね、三郎をよろしく、と言っていた。
雷蔵はこちらこそと笑っていた、なんであいつにはわかるんだろう。
同じ顔のはずなのに。
私のことは手にとるようにあいつにはわかっている、隠しているつもりなのに。
あいつは忍なのだろうか、疑ってみたがよく転んだりぶつかったりするあんな間抜けが忍なわけないといつもすぐに思うのだ。

「三郎」
「どうした」
「泣いてるの?」
「どこをどう見たら泣いてるように見えるのかな?」

にっこり、笑顔でそう言えばあいつは難しそうな顔した。
みんな、こうやって笑ってみせれば安心してすぐ私を忘れてくれるのに、あいつだけは、私の笑顔に騙されない。

「泣いてるでしょ」

負けない、まだ大丈夫だ。
涙はでていない。

「涙なんかでてないだろ」
「本当は泣いてるでしょ」
「、ちゃんと見ろよ」

笑顔の仮面はそう簡単には壊れない、他のより一段と強くつくってあるから。
あいつはゆっくり俯いて、私に言った。
私には見えない、でもみえてる、と。
意味がわからなかった、見えないのにみえてるというのは、どういう意味なのか。

「目が?」
「ええ、ごめんなさい、ずっと隠してたの」
「だっていつも」

普通に歩いてた、確かに普通より転んだりぶつかったりするけど、まるで全部みえてるみたいに、私がくれば私の名前を呼んでそれから、それから他にもたくさん。

「生まれた時から見えないからなのか、だいぶ慣れてしまったのね」

彼女の顔がくすくすと小さな声を出して笑っているはずなのに泣いてるように見えた。
切なそうな顔の彼女を目の前にして何もできない自分が痛く無力に感じた。
私がすまない、と謝るとあいつは気にしないでと私の頭を撫でた。

「あったかいなあ」
「なにが?」
「手」
「三郎の手は?」
「ほら、冷たいだろ」
「心があたたかいからね」

変なことを言うんだな、私が笑えばあいつはなんだか安心したみたいに笑った、ずっと私に気をつかっていたのか。
ありがとう、そう言えばあいつは一瞬戸惑って、でもすぐにいつもの優しい笑顔になった。