「あい、とは悲しいものだよ。」と彼は笑った、「しつれん、ですか。」とわたしは言った、我ながらなんて失礼な言葉なんだ。
彼は「ああ、」と苦しそうに笑った、まるで泣く3秒前のようだった。わたしははあと溜息をついた。
彼も泣きたいだろうが泣きたいのは、わたしなのだ。
彼に恋をしてからこんなに近くでこうして息をしているというのにまるでいないかのような扱い、否、彼の中ではわたしは生きていないのだろう。
頼ってはくれた、でも女としては見てくれなかった。
それがどんなに苦しいことか彼は知らないだろう。
知らなくていいのだ、彼は何も知らなくていいのだ。
わたしのこの思いも、すべて知らなくていい。
「  」
名前を呼ばれて振り向くと彼にがっしりと抱き締められた。
ああ、でも彼はわたしを見ていない。
「何故キミが泣いているんだ」
「貴方が泣かないからです」
そうか、と言って彼は苦しそうに笑った、わたしは彼の背中にそっと手を添える。
「キミに恋をしたかったよ、」そう言った彼は笑っていた。
「あい、とは悲しいものですね。」わたしはにっこり笑ったのだった。