寒い、そう呟けば征矢はあっそ、と短く興味なさそうに言葉を吐き捨てた。
深夜、月が見たくて家を出てこの公園まで来たら、征矢がいて、征矢が私を見つけて、手招きするから私は征矢の隣りに座った。
着るか?征矢が自分の着ている上着を脱ごうとした、いや、いいよ、私はマフラーに顔を埋めた。
征矢はそんな私を見つめてから、静かに空へと視線をうつした。
私も月を見るため空を見上げると、月はどこにもなかった。
昔はここの公園からよく見えた月も、いつの間にかできたマンションで見えなくなっていた。
残念、私は立ち上がる、征矢は、じっと空を見たままだった、何も見えない空を見つめているだけだった。
征矢は何か見えているのだろうか、私はまた空を見つめる。
何もない、星さえもでていない、ああ、暗い、暗くて、怖くて、だめだ、泣きたくなる。
その場に蹲ると征矢は私にどうしたのか聞いてきた、なんでもないと返せばなんでもないなら泣かないだろ、と言われた。
暗いのは怖いの、そう言えばふーんと征矢は興味なさそうに呟いた。
興味がないなら最初から聞かないでほしかった、自分の弱点を他人に教えているようなものなのだから。
おばけとか怖えの?征矢は言った。
あー、どっちかって言うと怖い、そう答えれば、征矢は笑った。
笑うなよ、そう言えば悪い、と言いながら私の頭を叩くように撫でた。
ガキじゃあるまいし、こんなことで安心してたまるかと思っていたけど何故か安心した。

「ここは月が見えないね」
「ああ」

征矢は何を見てたの、そう言えば征矢は別に何も見てないと答えた。
あっそ、さっきのおかえしのつもりで興味なさそうに言ってやった。
でも征矢はそんなこと全然気にしてないみたいで、私のマフラーをするりと奪った。

「あったけー」

征矢はくるくると私のマフラーをまいて呟いた、私が寒いから返してよと言えば手袋を渡してきた。

「これじゃあ割にあわない」
「うっせ」

ばか征矢、そう言ってマフラーを奪おうとすると手があたった。
征矢の手はすごく暖かくて、私は征矢の手を握った。

「おっ、おい」
「手袋よりこっちのがいいや」

そう言えば征矢は顔を真っ赤にしてマフラー返す、と言った。
マフラーより征矢の手がいい、そう言えば征矢は馬鹿かお前と吃りながら叫んだ。

「なによ、征矢よりは成績いいんだから」

征矢はとにかく離せと叫んだ、うっさい、なによ女の子と手繋ぐの初めてだから照れてるとか?と笑ってやるとちげーよ、と叫んだ。
ムキになるところがあやしいと思っていたら征矢はじゃあいい、と落ち着いた。
征矢の手暖かいなあ、そう言えば征矢はお前の手冷たいな、と言った。

「心が暖かいからね」
「ねーよ」

二人してけたけた笑った。