泣いてないよ、私がそう言って笑えば潮江はすごく眉をしかめて、バカタレって言うんだ。
今日も、泣いてないよって言った。
潮江は今日はバカタレって言わなかった、ただ、優しく包みこむみたいに抱き締められた。
そっと、耳元で声がした、泣けって。
もう強がんないでいいって。
そしたら泣くつもりなんてこれっぽっちもなかったのにね、ぽろぽろぽろぽろ流れてきたの、涙が。
そしたら潮江なんだかすごくホッとした顔してぎゅってしくれた。
昔はよく、お父さんとかお母さんにしてもらった。
でも、お父さんもお母さんもいなくなって、それで、ぎゅってされることもなくなって。
別にぎゅってされたいとかは思ってなかった、けど、安心した。

「潮江、泣いちゃったよ」

そう言って笑えば潮江はああ、と言って私をぎゅってしたまま、話しかけてきた。

「お前はその…頑張りすぎだ…だから…な、」

潮江は私の頭を撫でた、止まらない涙を私は拭う。

「もっと泣け」

頼れ、そう言ってぎゅうってしてくれた、拭ったはずの涙がまた零れた。
今までこんなこと言ってくれる人いなかった、頑張らなくていい、確かにそう、潮江は言った。
いつもみんなは頑張れ頑張れって言った、私は頑張ろうと思った、親がいなくなってから尚更。
でも、いつしか思っていた、私もう頑張ってるよって、初めてだった、頑張るななんて、ぼろぼろ零れる涙が止まらなくて、困ったけど、もう少しこうしていたいと思った。

「お前は何も得ようとしない…変わった、何故だ」

そう、私は親をなくしてから変わったのだ、もう何も得たくない、そう思ったのだ。
だって、私が何かを得た途端、最愛の人が2人もいっぺんに失われた。
だから私はすごく考えて、決めたのだ失わないためには得なければいいと。
得ることさえなければ、失うこともないと。
そう言えば潮江は、難しい顔した。

「もうこれ以上何も得なければ、この学園を失わなくてすむ、みんなを失わなくて、潮江を失わなくてすむ…そう思ったんだ」

もう最愛の人をなくすのは、嫌なのだ。
潮江は今日初めて私にバカタレって言った、その顔は泣いてなかったけれど泣いてるみたいに、みえた。

「俺はずっと傍にいる」

それだけ言ってそっと手を握られた。
潮江はそう言ってくれたけど、ずっとなんてね、ないんだよ、永遠だ永久だなんて、全部ないんだよ。
私がそう言って泣けば、潮江はそうかもな、と真面目な顔して言った。

「でも、信じたい、とは思わないか」
「え」

俺は信じたい、そう言って潮江は笑った、潮江がそんなことを言うなんて、私は思っていなかったので、私はけたけたと笑ってしまった。
すると潮江が笑うな、と怒りだしたので私はごめんと謝った、けど、笑うことは止められなかった。

「いつまで笑っているんだ」
「だって潮江が、そんな顔で言うから」
「そんな顔とはなんだ!」
「あーもう、おかしい」

口を手で隠してみても笑い声は隠れない、潮江は相変わらず難しい顔して私の隣りで座ってるし、もうおかしい。

「ねえ潮江」
「なんだ」
「私も、信じてみようかな」
「む」
「潮江の言う、ずっとってのを」

多分私は、最初から信じたかったんだと思う、永遠とか、永久を、でもひねくれた子供みたいに、信じない信じたくないって、大人になったつもりで、精一杯背伸びして、現実見たつもりでいて、でも、全然だめだった。
本当は知ってた、得ることをやめても、失うことがあるってこと。

「もう、得るのを恐れないよ」

そう言って笑ったら、潮江は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「それでいい」

潮江はそう言って目を細めた。