※ヒロインが死んでしまいます。























かみさまってなんなんだろうね、彼女が最後に言った言葉が頭の中でぐるぐるぐるぐる。
生きたいと彼女は泣いた、何もできない俺は、彼女になんて声をかけていいかわからなくて、何も言えなかった、最後まで、何も。
ただ、大丈夫だ、とか死ぬわけないとか言ったらよかったのだろうか、それも、いまいちよくわからない。
彼女は前に言った、何かを得たと思ったらいつの間にか何かを失っていて、それから得るのも怖くなって、ずっと一人で泣いてた、と。

「まさはる」

小さな声で俺を呼ぶ弱りきった彼女を抱き締めることすら出来ずに俺は不器用に笑うことしかできなかった。
そんな俺を彼女は許してくれるだろうか、否、許してくれはしないだろう。
するりと頬に手を添えて、流れる涙をそっと拭った。

「まさはる」

ごめんね、俺同様不器用に笑う彼女を見て、俺は泣きたくなった。
けど、苦しいのは自分じゃないと思った途端に、涙は引っ込んだ。

「ありがとう」

そう言う彼女に首を横にゆっくりとふった、今まで辛かっただろうに、今でも辛いだろうに、それでも俺を、俺のことを心配するように見つめる彼女の目は、前から変わっていなかった。
それが嬉しいことなのか悲しいことなのかはわからなかった。

「かみさまってなんなんだろうね」

彼女はよくそう言って泣いていた、何も失いたくないと、言っていた。
それは俺も同じで、少しわかったような気持ちになったが、本当の心なんて、人の本当の気持ちなんてわかるはずはないんだと俺は思った。
でも、わかりたい、理解したいと思った、彼女の気持ちをすべて理解して支えたいと思った、こんな気持ち初めてで、戸惑うばかりだったがそれが俺の本心だった。
偽りを得るのは簡単だが、本物を得るのは簡単ではない、しかしそれには不釣り合いなほど失うのは簡単だ。
するりと手を抜けて、おちていってしまう。
その感覚は、悲しいとも苦しいとも違う気がする。
虚しい、に似ている気がする。
無力を嘆いて、得て、失って、その繰り返し。
得ることがなくなれば失うこともなくなるだろうと思った時もあった。
でも、怖くなる。
得ることがないと、不謹慎だが、死にたいくらい怖くなる。
失った時と同じくらいだ。
失うたびに得ることをやめようそう思うのに、新しい希望に俺の胸は震える。
そうやって人間は生きているんだろうと思う。
失った時のことを時と共に忘れ、新しい希望に、みんな胸が震える。

「まさはるは」

彼女はその続きを言ってはくれなかった、きっと、忘れないで、だろうと俺は思っている。
時と共に何かを忘れる人間な俺に、それができるだろうか、できないと思ったから、続きを言わなかったのだと思う。

「すまん」

謝れば、彼女は驚いたように目を見開いて、それから、優しく微笑んだ。
そして、俺の手をそっと握った。
でももう、握られることも、なくなってしまった。
彼女は、いなくなってしまった。
かみさまってなんなんだろうね、彼女は最後に俺にそう言ってから、泣きながらも笑って、逝った。
知らぬ間に、涙がほろり、ほろりと零れておちた。
拭うこともせず、ただ立ち尽くしていた。
まわりが声をあげて泣くなか、俺だけは静かに涙を零すだけだった。
信じたくなかった、こんなにもあっけなく終わってしまうのか、人というものは。
かみさまってなんなんだろうね、本当だ。
彼女がなにをしたと言うのだ。
だが、かみさまとかいう奴へと怒りよりも、無力な自分が一番嫌だった。
彼女ともっと話したかった、もっと好きなものを食べさせてあげたかった。
最後に残るのは後悔ばかりだった。
しばらくして、一通の手紙が届いた、差出人は彼女だった。
書き出しは『まさはる今までありがとう』だった。
何も、してない、お礼を言われるようなことは。
涙を我慢して続きを読んだ、続きには、今までの思い出について、たくさん書いてあった、忘れていた失敗談や、恥ずかしいことも書いてあった、けど、なんだか彼女が覚えていてくれたことが嬉しくて、笑った。
最後に、本当にありがとう、まさはると過ごす時間は楽しかったよ、と書いてあった。
ああ、俺もじゃ、なんて、心の中で思って、手紙を机の引き出しに入れた。
消してあったけど、本当に本当に最後に、また会えるから、泣いたらだめだよ、私まさはるのこと見てるから、ずっとずっと大好きだからと書いてあった。
涙は不思議と出なかった。

「お前さんのぶんも生きるから」

俺は鞄を持って、学校へむかった。