「先輩」

覚悟を決めて声をかけると先輩の肩がびくりと跳ねた。
俺は真直ぐに先輩を見つめる、先輩は俺から目を逸す。
俺はそれでもお構いなしに話しだす。

「先輩は、俺といるの楽しくないかもしれませんが、俺は、楽しいです。」

先輩の肩が小さく揺れる。

「先輩が時々笑ってくれたり、するともっと、楽しいです」

先輩は俺の方を見なかった。

「でも俺、こんな気持ち初めてで、わかんなくて、嫌味とかばかり言って、すみませんでした」

そう言って、頭をさげて俺は先輩の部屋からでていく。
先輩は俺のことを止めなかった。
俺はドアごしに先輩に声をかける、好き、です、と。
そして玄関まで行き、お邪魔しました、とだけ言って先輩の家をでた。
近くの公園まで行って、ブランコに乗る。
子供はもう、いない。

「っ」

泣いてばっかりだ、辛くて胸が痛くて、悔しくて。
ギイギイ、ブランコが音をたてる。

「日吉…っ」

公園の入口に先輩が立っていた、走ってきたようだった。

「な、んで、」

思わず立ち上がる、よかった、まだいた。と息を整える先輩を俺は目をぱちぱちしながら見る。

「ここだ、って…亮が、」
「宍戸さんが?」

見てたのか、もしかして泣いてるとこも見られたか、はあと溜息をついて俺は先輩に隣りのブランコに座るように促したが先輩は大丈夫だと言って座らなかった。

「日吉といるの楽しいよ」

先輩は立ったまま言った。
俺がびっくりしているとさらに続けて、日吉といる時間すごく好き、と言った。

「日吉、しかめっ面ばかりしてるけど、たまに笑ってくれて、嬉しくて」

先輩は照れくさそうに言った。

「でも日吉が他の女の子と話してるとすっごいムカついて、一日機嫌悪かったり」

そう言って足の近くにあった石を蹴った。

「あのね、私も好き、なの」

涙がぽろり、先輩の目から零れて砂に消えた。