店のものには手を出してはいけません、にじろうさんはそう言って私から商品を取り上げた。

「あー…給料から引いてるからいいじゃないですか」
「貴女もう半年分はとっくに使ってますよ」

にじろうさんが領収書を私に見せた、半年分、いや、それより少し多いくらいだ。

「うう…サンデーちゃん、にじろうさんがいじめるう」

サンデーちゃんの足にぎゅうぎゅうしがみつけばサンデーちゃんはびくっと震えた。
可愛いなあ。

「困ってるじゃないですか」

にじろうさんが溜息をついた、私はサンデーちゃんに悪いと思ってこふじに助けてもらうためにこふじに声をかける。

「こふじー」

じと、と私とにじろうさんを見たこふじは少し考えて私の頭をぽんぽん撫でてくれた。
優しいなあ。

「にっ、にじろう少し厳しい」
「ねー」

にっこり笑ってこふじを見ればこふじもにこにこ。

「貴方は甘すぎます」
「こふじは甘いんじゃない!優しいのだ!」
「貴女が商品に手を出さなければいいんです」

尤もなので私は一言すみませんと謝って店の奥へ戻った、あーあ、最近また悪夢がひどい、どうするかなあ。
商品の個数等をチェックしたり、蔵の掃除を手伝ったり、いろいろしてたらもう夜だった。

「うー」

寝たくないけど眠い、やっぱり怒られちゃうけどなにかもらおうかな、私が悩んでいると入りますよ、と声がしてにじろうさんが部屋にはいってきた。

「あ、はい(商品もらおうとしたのがバレた…のかな?)」

どきどきどきどき、怒られるかな、また怒られるかな。

「…また悪夢ですか」
「あ、はい」
「何も効かない悪夢なんてあるんですね」
「そう、ですね」

いつくる、いつくるんだにじろうさんの雷は。
びくびくしているとにじろうさんは眠いのですか、といつもの優しい声で私に問う。

「はい…でも、寝たくはないですけど」
「店長が早く帰ってくるといいですね、何かわかってるかもしれません」
「はい、」

もう怒ってませんよ、にじろうさんは笑った。

「え?」
「知ってますか」
「?」
「誰かと手を繋いで寝ると、怖い夢を見ないらしいですよ」

にじろうさんが微笑む。
怖い夢見ない、のか。

「まあ、確証はないですよ、誰かが言ってました」
「じゃあにじろうさん」
「はい?」
「手」

私が手を出す、にじろうさんは丸い目ももっと丸くして私を見た。

「ボク、ですか?」
「はい」
「でも…」

ぐい、にじろうさんの手をとって布団にもぐる、おやすみなさいと言えばにじろうさんは溜息をついた。

「…仕方ないですね、おやすみなさい」