目の前で日直日誌をしっかり隙間なく字で埋める真田を見つめて早一分、飽きた。

「真田はくそ真面目だなあ」
「なに?」
「間違えました、とても真面目ですね」

怒られそうな雰囲気なので笑顔で訂正、真田は溜息をひとつついてまた日誌を書き始めた。

「もういいんじゃない?」
「しかし、まだ」
「大丈夫大丈夫、私出すから、部活頑張って!」

真田からペンを奪って真田の筆箱に突っ込んで日誌を綴じる、真田はそうだな、となんだかいつもと違う感じだった。
具合悪いのか聞いてみればそんなことはない、と笑う、しかしなんだかいつもと違う、まるで部活に行きたくない、みたいな。

「部活で何かあったの?」
「何もないが」
「テニス嫌になった?」
「そんなことはない」

真田が不思議そうに首を捻る。

「じゃあなんでそんなに部活行きたくなさそうなの?」

私がはっきりそう言うと真田はガタガタッと大きな音をたてて立ち上がった。

「え?違うの?」
「そ、そんな風にみえたのか?」
「…うん」

こくり頷けば真田は溜息をついて机に突っ伏してしまった、なんか真田らしくないというか、大人っぽいと思っていたから意外と年相応な可愛い行動するんだな、と素直に笑ってしまった。

「何を笑っている」
「真田ってさ意外と可愛いね」

じろりと睨まれた、けど全然怖くない。
私がけらけら笑っていると可愛いと言われた真田は顔を真っ赤にして可愛いなど言われても嬉しくない、と言い放った。

「だって可愛いもん」
「俺はお前には、かっこいいと思われていたい」
「え」
「部活に行きたくないようにみえたのは、部活が嫌な訳ではなく、ただお前と一緒に少しでも長くいたくて、だな」

かああ、どんどん赤くなる真田の顔、ただただ真剣そうな真田を見て、私はやっぱり可愛いよとだけ言って頬にキスをした。

「なっ」

ぱくぱくぱくぱく、口を動かす真田、にっ、と笑ってやる。

「私普段の真田は可愛いと思うけど、テニスしてる真田はかっこいいと思うよ」

そう言うと真田は嬉しそうに笑った、なんだか真田も普通の中学生なんだな、と思いながら私は行こう、と声をかける。
真田は筆箱を鞄に入れて、ついてくる、私は職員室へ、真田は部活へ、別れる時に手を振ると照れくさそうにちょっとだけ手をあげた。

「(やっぱり可愛い)」

思わずほころぶ口元を誰にも見られないようにと手で押さえて私は職員室にはいった。