「しおえー」

だらだらだらーん、ぶらぶらぶらーん、木からぶら下がりながらたまたま通りかかったであろう潮江に声をかけるとちらりと私を横目で見てから溜息をわざとらしくついてはしたない、と言った。

「仕様がないよー、だるくてさー」

くるくる…すたっ、木から飛び降りる、きっと善法寺なら着地で転ぶんだろうな、と一人で想像して吹き出す。
すると潮江はまるで気持ち悪いものをみるみたいな目で私を見ていたので見てんじゃねぇ!と山賊のような台詞を吐き捨ててしまった。
潮江はそんな私にまたわざとらしく溜息をついてそれでも女か、と呟く。

「うるさい!」
「煩いのはお前だバカタレ…」

やけに冷静に、静かに淡々と叱られたのでなんだかむしゃくしゃして潮江のばか!と叫んでしまった。

「はいはい」
「……すっごくむかつく」
「ありがとな」
「ほめてない」
「そうか」

すごくむかつくすごくむかつくすごくむかつく!地団駄踏んで踏んで踏みまくって私の足元の土が少しかたくなった。

「そういやあっちで長次がお前探してたぞ」
「ほんとに?早く行かなくちゃ」
「…」
「じゃあ潮江またね」

ひらひら手をふって潮江が教えてくれた方へ歩いていく、中在家が私を探しているなんて珍しいな、特に約束等もなかった気がするんだが、ぶつぶつ独り言をいっていると腕をしっかりとつかまれ動けなくなった。
くるりと私の腕をつかんだその人を見ると潮江だった、まあ潮江と私以外この辺りに人がいないので当然だが。

「なに?」
「……あっちだったかも」
「あっち?わかった」

潮江が指差す方へまた歩き出すとまた潮江はこっちかも、いや、そっちだ、などと何回も行き先を変える、今度は私が溜息をついた。

「方向音痴がうつったの?」
「は?」

潮江は口をぽかんと開けた、全然意味を理解してないんだな。

「会計委員の三年よね?かんざし?かもん?だっけ?」
「神崎左門、だ」
「その人、確か決断力のある方向音痴だとか…」
「ああ…だが別にうつったわけではない」
「そう、なら本当の方角を教えて」

私がそう言えば潮江は溜息をついて、それから口を開こうとはしなかった。

「あっち?」
「いや」
「こっち?」
「ちがう」

痺れを切らした私が聞いても首を横に振るだけ、私がもうどっちよ!と少々怒気のこもった声を出せば潮江は叱られた犬のようにしょんぼりと俯いた。
私が頭をぽんぽん叩けば潮江は長次は図書室じゃないか?と呟いた。

「そう」
「…行かないのか?」
「潮江泣いてるから」
「泣いてねぇよ」

意地っ張りな潮江が真っ赤な顔して叫んだ、私はけたけた笑いながら潮江の頭をなで続けた。