「いけいけどんどーん!」

彼は走っていく、私の目の前を、風のように。

「ま、待って」

手を伸ばしてそう言った時にはもう、私の声の聞こえないところへと走っていってしまった、へにょん、と手をおろす。

「は、はあ…やっぱり今日も追いつけない」

へなへなと座り込む、後ろから滝夜叉丸が追いつくなんて無理ですよ、と言った。
息が切れている、私も、だ。

「無理じゃない、気がする、今日は昨日より近付けた」

それだけ言って仰向けになる、空は苛立ちを覚えるほど青い。
私はすぅ、と空気を吸えるだけ吸って、ぷはと吐いた。
そしてまたすぅ、と吸っていると滝夜叉丸が私にまた無理ですよ、と言った。

「なにが」
「七松先輩は恋愛にはかなり疎いですよ」
「知ってるわよ」

腕で顔を隠せば滝夜叉丸が隣りに座る気配がした、滝夜叉丸ははあと溜息をついて私に諦めるつもりはないんですね、と言った。
私は諦めるつもりはないわ、と笑う。
滝夜叉丸はまた溜息をついて、立ち上がった。

「早くくっついて下さいね、見てるこっちがはらはらします」
「はは、」
「七松先輩は、花が好きです、小さな花も大きな花も、結構好きみたいです」

滝夜叉丸はそう言った、自慢話をしない滝夜叉丸は珍しく、びっくりしたが真剣な声の滝夜叉丸の話を聞いていたら嬉しくなった。
私はそっと腕をずらし滝夜叉丸を見た、太陽がきらきらと輝いて、滝夜叉丸を照らしている。
私はくすりと小さく笑った。
滝夜叉丸は話を続ける。

「でも摘んではいけません、七松先輩は自然を大事にしろとよく言いますからね。結論を言いますと、一緒にお花畑にでも行ったらいいと思います(そして帰ってくるな)」
「ありがとう滝夜叉丸、でも、なんでここまで」
「さっきも言ったでしょう?見てるこっちがはらはらします、はらはらなんかしたくないんです(七松先輩も先輩のこと好きなのに、何故くっつかないんだこの人達は)」
「そうか、ありがとう」

それだけ言って私も起き上がろうとする、それに気がついた滝夜叉丸がさっと手を差し延べてくれる、またお礼を言って掴まった。

「おーいなにやっているんだー!」
「七松」

どきどきどき、心臓がいつもより早く脈打つ。

「七松先輩、先輩が今度お花畑に行こうと言ってます(先輩固まってるよ)」
「なっ、滝夜叉丸」
「いいぞ!よーし今から行こう」

そう言って私の手をとる七松、その瞬間滝夜叉丸がそっと私の手を離した。

「え、七松、ちょっと」
「(これでくっつくかな)」
「いけいけどんどーん!」

その掛け声と一緒に滝夜叉丸が見えなくなった。