「ねえ、太子のこと好き?」
「うん、好きだから付き合ってるんだよ」

にっこり笑う君の顔は世界で一番愛らしい。
でも、僕にむけての笑顔じゃないんだよね、そう思うと少し悲しい。

「そう…残念だな」
「え?なに?」

ぼそりと呟いた僕の言葉は聞こえなかったみたいだ、別に聞いてほしかったわけじゃないけど。
きっと君は僕を愛してくれないよね、知ってる、ずっとずっとずっとずっとずっと、あいつより僕の方が長く一緒にいるはずなのにあいつのことが好きなんだ。
でもそうだなあ、例えば来世になれば君は僕を愛してくれるのかもしれないな。
そう思ったらくすくす笑ってしまった。
君は少し驚いた様子で僕に問い掛ける。

「妹子、それって…」
「うん?包丁だけど」

昨日から丁寧に研いでおいたからきっと綺麗に切れるよ。
想像しただけで興奮するね、君は泣くのかな?
じりじりと君に近付いていく、ゆっくりゆっくり、焦っちゃいけない。
君も少しずつ後ろに下がる、君の目、すごくいい、僕が怖いの?

「、太「他の男の名前なんて言わないでよ」

僕のくちが三日月みたいに弧を描く、ああ、泣くの?
やっぱり泣くんだ、可愛いね。
でももう後ろは壁、どうするのかな。
面白い、笑みが込み上げてくる、たまらないな。

「どうしたの?いつもの妹子じゃないよ」
「うん、いつもの僕じゃない、そうさせたのは君だろ?」
「い、もこ」
「  」

名前を呼ぶとびくりと肩が跳ねた、怖い?怖いの?
す、包丁で僕の腕を撫でれば血がぽたりとおちた。

「手当てしなきゃ、妹子」

そういう優しいところ好きだったなあ。
でも僕だけに優しければいいんだよ、他の奴やあいつなんかに優しくする必要なんかないんだ。

「いいんだ、痛くないから」
「でも」
「痛くないから、ね、君も大丈夫だよ」
「っ」
「腕をだして?」
「いやっ」

そっと腕に触れれば君の口からは拒絶。
やっぱり、僕のことは嫌いなのかな、僕はこんなに好きなのに、こんなのおかしいじゃないか。
好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらないのに君は僕が嫌いなの?
おかしいよね、違うよ。
君も僕を好きじゃないとだめだろ。

「大丈夫、痛くないから」
「っ、やだ」

力尽くで腕を引っ張る、いやいやと首を横にふってもだめだよ。
まるで氷の上みたいに包丁は君の腕の上をすべった。
君の悲鳴が響く。
太子、太子、君の口からはあいつの名前ばかり。

「今、目の前にいるのは僕なんだよ」

ぎゅうぎゅうぎうぎうぎりぎりぎりぎり。
傷口をきつく押さえる。
ねえ、僕の名前を呼んで、君はまだあいつの名前を呼ぶ。

「ねえねえねえねえねえねえ!」

まだ足りないの?
もっと刺せばいいの?

「呼んでよ、ほら、前みたいに、いつもみたいに、妹子って」

刺しても刺しても君は僕の名前を呼んでくれない、でもあいつの名前も呼ばなくなった。
息もしてない、先にいってしまったのか。

「…また会おうね」

きっと次は君と僕は恋人同士だよね
―――――
濃霧さんリクエスト病み妹子。
病んでるってこんな感じで大丈夫でしたかね?
病んでるっていうより、狂ってる気がしますが、病んでるってことで。
なんか気持ち悪い感じですみません。
濃霧さんリクエストありがとうございました。
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