「ちょっと、ゴーヤも食べなさいよ」
「う……」

今日は木手くんが手料理を食べさせてくれるそうなので木手くんの家まで遊びに来た、が、今猛烈に逃げたい。

「木手くん、私がゴーヤ苦手なの知ってるよね」
「はい」

じゃあなんで料理全部にゴーヤ入れるの、と聞きたいのを我慢する。

「食べさせてあげましょうか?」
「いいです」
「口移しがいいですか?」
「いやいやいやいや」

ご冗談を!と言えば冗談じゃありませんよ、とあやしく笑う木手くん。
私は苦笑いするしかできなかった。

「さ、食べて下さい」
「ん、頑張る」

そう言ったはいいもののなかなか食べられない、ちらりと木手くんを見れば早く食べなさいよ、と言われてしまった。
覚悟を決めて、目を瞑って鼻をつまんでゴーヤを口に放り込む、なるべく噛まないで飲み込む。

「うえー…」

うん、飲み込めた!と言いながら笑うと木手はびっくりしたような顔をした。

「なに?」
「い、いえ」

眼鏡をかけなおす木手くん、私は何か変なことしただろうかと首を傾げる。

「あ、そうだ!」
「なんですか?」
「美味しかったよ」
「ゴーヤが?」
「ゴーヤ以外!」

そう言って笑うと木手くんもふわりと笑った。
なんだか嬉しくなってもう一口食べる、木手くんは信じられないといった顔をしていた。

「ん、美味しい」
「それはよかった」

それからどんどん食べていって、お皿の上は綺麗になった。

「ごちそうさまでした、ゴーヤ克服できました」
「それはよかった」
「じゃあ少ししたら帰るよ」

そう言ってお皿を洗おうとすると木手くんがさっと私からお皿を奪って洗いに行ってしまった。

「あ、私やるよ」
「いえ、俺がやります、貴女は風呂にでもはいってて下さい」
「何故風呂!?てかもう帰りますよ」
「いや、帰らないでいいですよ、泊まっていって下さい」
「いやいやいや、無理だよ」
「貴女の親には連絡しました、今日は俺の親もいません」
「え、」
「夜は長いですよ」

にやりと笑う木手くん、ああ私、食べられてしまうのかもしれない。