「先輩」
「なに?」
「太りましたね」

私を後ろに乗せ自転車を漕ぐ若は言った、私は一瞬なんのことを言っているのかわからなかったが言っていることを理解して若の髪の毛を引っ張った。

「痛いですやめなさい」
「やめて下さいでしょ」
「やめなさい」
「…」

全くやめて下さいと言う気のない若に私ははあと溜息をついて髪の毛から手をはなす。

「先輩」
「なに?」
「やっぱり太りましたね」

そう言う若の髪の毛を私はまた引っ張った、痛いです。と若は言った。
謝る気はなさそうだ、私ははあと溜息をついて髪の毛から手をはなした。
そんなに太ったかな、とか思いながらお腹を見てみる。
ぽっこりとでている。

「やっぱ太ったわー」
「だからさっきから言ってるじゃないですか」
「もうやだー」

私が若の背中にぴたりとおでこをくっつけるとぴくりと若が動いた。

「でも」
「なに?」
「俺は少しぽっちゃりしてた方がいいと思いますけど」
「若」

先輩は細いすぎですから、若はそう言って自転車を漕ぐのをやめた。
歩きましょうか、目の前には坂道、私はうん、と答えて自転車からおりる。

「若、好き」
「知ってます」

夕日が私達を照らした、若の顔が赤いのは夕日のせいなのか他に理由があるのか私にはわからなかった。
ただ、他に理由があると信じてみたかった。

「ねぇ若」
「なんですか」

ずっと一緒に居られるかなあ、私のくだらない不安は若のずっと一緒に居ますよ、の言葉で消えていった。