ぎゅう、ぎゅうぎゅう、と曽良に右手首を掴まれた。
力の強い曽良なので、かなり痛くて涙が零れそうになった。

「そ、ら」

小さな小さな声で曽良を呼ぶ、曽良は平然とした様子で私に問いかける。

「なんですか」
「かなり、右手首が痛いのですが、」

右手首を見れば曽良も私の右手首をちらりと見た、そしてまた私の顔を見た。

「そうですか」
「そうですかって…」

はあと溜息をついて右手首をちらりと見る。ああ、痛そう、いや事実痛いんだけど。

「僕の方が…痛いですよ」

そう言って曽良は俯いた、私は何か怪我でもしてるのかと心配になって顔を覗き込む。
覗き込むと曽良ははあと溜息をついた。

「怪我でもしてるの?」
「このあたりが…もやもやちくちくします」

そう言って曽良は胸のあたりをくるくると手で撫でた。

「は」
「貴女が、芭蕉さんと話すとさらにちくちくします、これは病気ですか?」

首を傾げる曽良、私はうーんと考えて恋の病ですかね、と答える。
すると断罪チョップをされた。

「ちょっとなんで断罪チョップするの?」
「僕が恋の病なんてありえません」

真顔でそう言う曽良、事実だし、と答えると曽良は少し考えてから口を開いた。

「百歩譲ってこれが恋だとしても貴女に恋だなんてありえませんよ、貴女は嫌いの部類に入りますから」

曽良は早口にそう言うとしまったといった顔をした、私もムカついたので曽良は怖いけど言い返してやった、私だって曽良のこと嫌いだ。と。
そう言うと曽良はハッとして、胸に手をあてた。
そして痛い、と呟くと私を優しく抱き締めた。

「やっぱり好きです、嫌わないで下さい」
「こ、こんなの曽良じゃない!」

そう叫んだ瞬間私は布団から飛び出した、つまり、今までのことはすべて夢だったのだ。

「うなされてましたよ」

目の前に曽良の顔、びっくりして後ろに退いた。

「どんな夢だったんですか?」

曽良は私の夢に興味を持ったようで目を輝かせて私に聞いてきた。

「い、言えない」
「そうですか言いなさい」

ニッコリ笑った曽良は私の頬を両手でつかんで引っ張った。

「い、いひゃいいひゃい、言いまふ!言ふから!」
「よろしい」
「曽良が恋する乙女になる夢」

頬を擦りながらそう言えば曽良は残念そうなものを見る目で私を見つめた。
そして私に一言言った。

「残念な人ですね」
「うわー泣きたい!」

何故夢に曽良がでてきただけで泣く羽目になるのか、全く私には理解できなかった。