ぜんぶ埋めてあげる、と雷蔵が俺を抱き締めた。やめてくれ、と泣きながら首を振っても、それさえ許さないみたいに、頭ごと肩口に抱き止せられて、きつく、きつく、ぎゅっと力をこめて俺の体を粉々に折ろうとする。涙を拭くことだって許してくれない。三郎より暖かい体温が、じわじわ俺に侵食してくる。三郎は、首下とかすごく暖かいくせに、爪先とか手のひらとかはいくら俺の体温をあげてもあったかくならなかったんだ。冬の始まりの日に死んでるみたいだって笑ったことが横隔膜の奥底を冷やしてくる。生きていても死んでいても三郎の指先は冷たくて、まばたきをするかしないかの僅かな差異だけが、俺を泣かせるか笑わせるかの違いだった。兵助、って呼びながら、額を小突いた手は目の前で地面に吸い寄せられてそのまま、縫い止められたようにぴくりともしない。
どこも間違ってなんかなかった。無理矢理作った輪っかの中で大人しくしていたはずだった。その形が歪になっていつか壊れてしまうとしっていたから、あの時は幸せだって思えていた。だから俺にはこの損失感が必要だった。
でも雷蔵は違った。雷蔵は元の形を追いかける。へし折られそうなくらいの身体の圧迫に、耐えられなくて、胸がつっかえて、潰されてしまいそうで、やだ、やめろよ、と吐き出すともう苦しくて、死にそうだった。

「忘れてよ兵助。鉢屋三郎はもういない」
「や」
「ぜんぶ僕が埋めてあげる」

本物の体温が実物を失った過去を塗り替えようとする。






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