泣いている人を見ると、どうしていいかわからなくなる。それが三郎だとなおさらで、いままで泣き顔なんて見たことなかったから余計にわからない。
 別に兵助が泣かしたのではないし、突然泣き出されたのでもない。ちょっとした用事があって訪ねたら泣いていた。
 なんで、と頭が凍ったのが正直なところ。
 なにせ――いっそ自分で言うが、泣くことは兵助の仕事だ。いつだって兵助が泣いて、それをなだめたり放ったらかしたりは三郎の役目。だから向こうが泣くのはルール違反だ。抵触どころの騒ぎでなはい。
 ひとまず膝に置かれていた手をにぎって、どうしようと考える。
 はじめのころから三郎は慰めるのが上手だった。迷惑そうにしながら(実際に文句も言って)綺麗に兵助をまるめてしまう。しかしそれは三郎だからできることだ。泣いている理由がわからない兵助にはどうしていいのかもわからない。
 自分は三郎にどうもしてやれなくて、気づいたら涙がこぼれた。静かな静かな涙がうつったみたいに。
「……なんで兵助が泣くんだよ」
「わかんない」
「わかんない、って」
 声は震えていなかった。それでも顔はあげてくれなくて。
 三郎を想うと、あとからあとから涙が出てきた。







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