ころん。かろん。兵助の目尻から涙がこぼれるたびにそれが綺麗に固まっていく。 魚の涙は水のなかでしかゆるやかに溶けない。空気に触れればすぐにでも固まって、それは気持ちと同じ色合いの光をはじく。真水に落とせばきめ細かに発泡し、あるいは粒状のまま加工して装飾品になる。 ぽろぽろと頬や鎖骨をすべり落ちる涙の粒をひとつひとつ拾いあげて、わざわざ雷蔵の前で泣いて見せる兵助に首をかたむける。 「久々知の涙は飛びきり高く売れるからぼくは願ったり叶ったりだけど、ぼくがおまえをなぐさめるつもりはないのをわかっててなんで泣きに来るかな」 「だって」 「だって?」 「雷蔵は、やさしくないから」 「はあ?」 なんだそれ、と雷蔵は思う。 やさしくないから泣くのだとか、被虐趣味でもあるのだろうか。 そのように訊ねれば、兵助がちがうと首を振る。涙がばらばらと飛び散る。もったいない。 からころ転がる飴玉みたいな涙をかき集めて、瓶に詰める。蓋をして、ラベルを貼って、出荷準備完了。 「だって、雷蔵はおれの涙をちゃんと三郎に届けてくれるから」 綺麗な顔を綺麗な涙で飾って、魚が言う。 水のなかでは溶けてしまうそれも空気に触れれば気持ちと同じ色で転がる。 たしかに兵助の涙はいつも三郎好みの色合いできらめいているけれど。 「……そういうつもりなら、ぼくはもう知らないからな」 好きを伝える手伝いをさせられるのは真っ平で、兵助のそれはもうぜんぶ売ってしまおうといま決めた。 |