ぐずつく兵助の頭を撫でる。
 べつにこうしなくたってこの泣き虫は勝手に泣き止むし、勝手に泣く。泣き虫なんてそういうものだ。涙腺のキャパシティがぐらぐら変動する。まわりからすれば迷惑な話。なんだかんだで居合わせる三郎には、あたたかくなれば花が咲く程度には当たり前でどうでもいい現象。
 今日だって、本当になんでもないこと。もしかしたら兵助にとってはかなりな重大事件だったのかもしれないが三郎には意味不明もよいところ。道端でいきなりぼろりと泣かれて、いくら慣れていても対処に困る。
「へー。へーすけ」
 ベンチにならんで座って、肩を抱き寄せるみたいにする。世間体がだいぶ痛いことになりそうだがそれ以上に泣く兵助を放置するほうが始末がわるい。よくも、わるくも。兵助は目立つから。
「泣くなとは言わないぞ。いまさらだし。でも、今日はやめとけ」
「なん、で」
「寒いから。兵助寒くないの、」
「さむい……」
「ほら見ろ」
 体温を分けあたえるみたいに、ほんのもう少しだけ寄り添ってみる。
 今冬いちばんの冷えこみだとラジオが言っていた。今年の冬はまだ残っているのに、どうして一番と言えるのだろう。三郎はそれが不思議で仕方がない。
 今日が終わってこれ以上冷えないのなら、もっと具体的な気温を提示してほしい。そうしたら三郎は兵助に泣いていいぞと言ってやれる気がする。もちろん言わない。だって、泣かれるのは面倒だから。






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