兵助が、もしかしたら恋したのかもしれない、と顔を真っ赤にして呟いたのは1ヶ月前。憶えてますか。25歳の君は自分の気持ちを認めたくないとチェーン店のレストランで泣き伏せて周りから冷めた目で見られてたから、おれもドリンクバーを装って席を立ちました。そんな初秋の頃もありましたね。
あれから忙しくて兵助にろくに構えなくって、たまに社内ですれ違ってはまたなーと手を振る程度で話したいことがどんどん溜まってくんだけど!と社内メールで怒られたりした。けど。別に返さず放っておいた。のは。さすがに悪い気がして、なんとなく仕事も一段落してぽっかり空いた金曜日。今日、暇?と社内メールを入れてみた。ほんの気まぐれ、あるいは罪悪感から逃げたくて。
メールの返事が9割は返ってくる兵助から珍しく返信が来なかったのは、恐らくまあ出張とか出張とか出張とかが要因なんだろうけど。朝送って夕方まで返ってこなかったから、せっかく空いたけど、おれ今日はもう帰るしまた今度なー、と帰り際にもう一度送って、いつもならだらだら残るところを、早々に退社。

「おれも今日はたまったまバスじゃなくて地下鉄にしただけでさー、兵助と駅で会うとかあり得ないはずだし」
「俺もう勘ちゃんが足りなくてしんどい。最近全然相手してくんないし。ほんと俺、今日は勘ちゃんにマシュマロあげるためだけに職場に戻ってきたんだよ」
「わあ馬鹿だねー愛されてるねー」
「うん愛してる」

ぞわ、と背筋が寒くなったのは寒気のせいだけじゃない。兵助はおれにしがみついてずびずび泣く。成人男性が駅のホームで同い年の男にしがみついて愛してるって泣くなんてどっからどう見てもそうにしか見えないんだろう。視線がざくざく刺さる。

「とりあえずさ兵助、おれそのマシュマロ食べたい」
「ひどい。俺よりマシュマロが好きなのか」
「当然だろ」

仕方がないので笑いながら顔をマフラーでぐるぐる巻きにしてやった。兵助だって、おれより好きな人ができたくせによく言う。






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