泣かないための用意はしていた。
 兵助がなにを言おうがいくら喚こうがちっとも聞いてくれないから泣かないためには兵助が努力するしかなかった。泣き虫の兵助ががんばるよりも涙の原因である鉢屋やら勘右衛門やら八左ヱ門やら雷蔵がちょっとでも気にしてくれたらいいのに。
 誰かが兵助を泣かせたときにはあいつはひどいやつだなあと同意して慰めてくれるのに自分でも同じことをする。だから兵助はいつも泣かされてばかりだ。泣きたいくらいには腹立たしい。でも腹立たしくなるのは泣いた後だから兵助はどうしたって泣いてしまう。感情とか理性とかの前には決壊している。涙腺もっとがんばって。
 だから、今日こそは泣くまいと、泣かないための用意をしていたたのに。

「ふ、ふた、……ふたりがかりって……」
「いやいやいやいやいや」
「その言い方はやめなさい兵助。まるで私たちが結託したみたいじゃあないか」
「ううううう……」

 兵助をなぐさめようといつもみたいに肩を抱こうとする八左ヱ門を嫌々と拒絶する。鉢屋は困ったみたいな表情を雷蔵の顔でしていた。
 先ほどまで兵助といっしょだったほかのふたりは桶だ手ぬぐいだ握り飯だとばたばた出ていってしまったから自然と兵助をなぐさめるのはこのふたりの役目だ。ざまあみろだ。こっちは泣きたくないのに泣いているんだからせいぜい困ればいい。







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