かろん、と口の中でチュッパチャップスを転がして鉢屋はにやりとする。考えてみればこんなところで会えるはずもないのに、鉢屋は俺の目の前にいる。手を伸ばせば血色の悪い肌に触れられたし、少し近づくだけでたぶんイチゴ味なんだろう甘ったるいにおいもした。
真っ白な天井に点線のような電子音が響いていた。音は本当にそれだけで、鉢屋がそこにいる音はどこか別次元に依存していた。五感を侵食するのは愛だ。水浸しだったキャンバスにはあまりに鮮やかすぎて目に痛くて、俺は苦しいくらい悲しくなっていく。

「兵助、どうした死にそうな顔して」
「は、ちや…なん、」
「お前が会いたいと思ったから来てやったんだろうが」
「…は、」
「泣くなよ。かわいい顔したってなんにもやらないぞ」

こつん、と額と額をくっつけて鉢屋は水をとくとく注ぐように笑った。なみなみと俺の心を満たしていく鉢屋の柔らかな声は、もちろん幻聴でもなんでもない。そう思いたい。だって俺はずっとずっとずっと鉢屋が好きだったんだ。好きだったんだよ鉢屋。

「っちや、ぁ」
「なんだ?ほんと、お前は昔から泣き虫だよな」

白い棒のついた飴を取り出すと、鉢屋の赤い唇や、呼吸や、視線が、全部が優しく存在した。その距離がもどかしくて俺から近付いたら、ちゅ、と甘い飴玉を押しあてられた。全部が全部がそこにあって、ああ、本当にひどい。

「ばかだなぁ。死にたいと思ってしまうくらいなら、恋なんてしなけりゃよかったのに」

そんなの、お前が勝手に死んじまったのが悪いんだよ、ばか。






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