夢から覚める瞬間は切断に似ている。いきなり途切れ、途切れたことに気がついたときにはもう夢が冷めている。
 とてもかなしい夢をみた。
 褪めてしまえばもうなにがかなしかったかさえおぼろ気で輪郭をなぞるのもむずかしい。けれども身体には夢の余韻が煙のように染みついている。
 兵助が死んだときのことだった。
 兵助が死んだのを細かく観察されていた。
 兵助が置いていったのだった。
 観察対象になりながらずっとどうしようと思っていた。約束はしていなかったけど死んでしまって、置いてきぼりにして、あいつは実はさみしがり屋だから泣いてしまうのではないかと不安になっていた。
 あいつは夢のなかでは泣いていなかったと思う。きっと兵助が泣き顔を見たことがないから、夢でさえ取り繕われたのかもしれない。
 ごろりと枕の上で頭を転がす。おだやかな寝息をたしかめる。布団から這い出した手を伸ばして、向こうの布団にちょっとだけお邪魔する。

「よかった」

 どちらのものかわからない体温を手のひらに感じて、生きていることだけはわかって、涙がぼろりとこぼれた。
 また泣いているのかと言われるかもしれない。だからまだ起きないで。







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