―まただ、またガン見されてる。

最近セドルが連れ回してる新人にガン見される様になった。まぁ、見られるのには慣れているがあの女の視線はどうもこそばゆくなる。

――俺、何か憑いてんのか?

****


初めて見た時は特に何とも思わなかったがもしかしてあの人アルビノかなぁ…。よく支部長に連れてかれて本部に行くけど見つけるとついついその人を見てしまう。えーっと、第5支部長のボギーウッズさんだっけ、なんかヤドカリの被り物をしている人。この間偶然にも素顔を見てしまった。真っ白の肌で、うすーい金髪で、目がとても綺麗な赤。美食會(ここ)に来るずっと前に知り合った人も似た様な容姿でアルビノという症状なんだって教えてもらった。そう考えるとボギーウッズさんも?って思っちゃって見ちゃうんだよね。唸りをあげながら考え事をしていると、前を歩いていた支部長が急に止まった。おかげで支部長の背中にぶつかり、ふげっなんて可愛気もない声が漏れた。
「なー」
「あ、はい?」
鼻を押えながら返事したせいか「変な声ー」と笑われた。なんか悔しい。
「…あのさ、最近オイラちょっと思ったんだけどさ、お前、ボギー見すぎじゃね?………気、あんの?」
さっきより少し低音で言ってきた支部長はどうやら怒ってるっぽい。一体何処で怒らせたんだろうか。背中か?やっぱ背中なのか?背中に当たったのが悪いのか!?いや、急に止まる方が悪いっしょ…。
「えーっと、違うんですよ、気があるとかないとかじゃなくて、ボギーウッズさんってアルビノなのかなーって。くだらないですよね?」
苦笑いしながら怒ってるかどうか顔色を伺ったところ顔を顰められた。あれ、何か変な事言ったっけ?
「あ、あの…何か、すみません…?」
「うん?何が?」
「いや、更に怒らせてしまったようで…」
「は?怒ってねーよ?オイラ、あんま難しい事言われるとちょっと分かんないんだよねー。ごめんな?」
手をひらひらさせながらニヘラっと笑った支部長を不覚にも可愛いと思ってしまった。
「あ、やべ、そろそろ行かねーと料理長にまた怒鳴られんなー。あーあ、めんどくせーから名前が代わりに行ってよー。」
ねぇ、ねぇ、と子どもの様に引っ付く支部長にまぁ、そう言わずにと言おうとした時、
「おい、何やってんだセドル、さっさと来い。料理長がお怒りだ」
ボギーウッズさんが現れ、支部長の目玉ネックレスを気持ち悪そうに引っ張って行った。

相変わらずヤドカリの被り物をしていたけどあれってやっぱ目の虹彩の色素が薄いからしてるのかなあ?

****


料理長に言われてセドルを迎えに行ってみれば例の新人に抱きついていた。人が態々迎えに来たってのに何やってんだよこいつは。呆れながらセドルと新人を引き離し気色悪いネックレスを引っ張りながら会議室へ向かった。…にしてもあいつ、名前って言ったっけな。また俺をいつもの視線で見てたな。
「おい、さっさと離せよボギー。何か知らねーけど、名前に見られてるからって調子こいてんなよ!」
目玉のネックレスを掴んでいた俺の手を払い除けズカズカと会議室に入って行ったセドル。は?調子こいてる?意味分かんねー。

己の席に座ると料理長がこちらに目を向け「うむ」と頷き目を戻す。そしてワインを一口飲み、いつもの説教と今回の任務の説明を始めた。

会議が終わるとセドルが何かを思い出したか俺の事をじっと見てきた。
「何だよ、気持ち悪ーな。言いたい事があんなら言え」
席を立ち、会議室から出ようとした時セドルが、
「お前、アル…、アルなんとかなの?」
名前が言ってたけど、と眉間に皺を寄せながら吐き捨てた。

―くだらねぇ。だからあの女、俺の事見てきたんだな。

****


何時も通り支部長が会議室から出て来るまで廊下に在る長椅子で待っているんだがこの時間はとても暇だ。かと言って寝るのも支部長になんだか失礼なようで気が引ける。だから大体は枝毛探しで時間潰し。
「あーあ、支部長まだかなー」
大きな独り言を言いながら背伸びをしたら会議室からボギーウッズさんが出てきた。あれ、何時もなら支部長の方が早く出てくるのに。
「お、お、お疲れ様です…」
「あぁ」
素っ気無い返事をしてそのまま帰るのかなと思いきや、何故か隣に腰掛けられた。
「あの、どうかしました?」
「別に」
また素っ気無い返事。普段あまり話す機会がないからどんな人なんだろうって思ってたけど見た目通り冷たい人だなぁ。なんか寂しいな。会話が発展しそうにないのでまた枝毛探しをしようとしたら「おい」と声を掛けられた。
「は、はい!」
自分でも驚くぐらい声が裏返っていた。そんな一人称を見てか何故か笑い始めたボギーウッズさん。そして被り物を取って自分の隣に置き、一人称の方を向いて言った。
「お前、面白いな?」
はい?いや、面白くないっしょ。一人称としては。寧ろ貴方の被り物の方が面白いですよーなんて言ってやりたかったが何されるか分からない。そもそもボギーウッズさんの能力をまだ把握出来てないから下手に動けない。
「お前、名前って言ったよな?よく俺を見てくるけど、何か言いたい事あんだろ?ハッキリ言えよ?」
紛れもなく嘘を付けば殺しますよオーラを出しながら言ってくるボギーウッズさん。こ、怖。助けて支部長!帰ってきて支部長!
「……え、えっと、では、この際遠慮なくお聞きします…よ……」
「おー」
ニヤニヤしながらこちらを見ているボギーウッズさん。間違いなく知ってるなこれ。支部長ボギーウッズさんに言ったな。くっそ、支部長おぉぉ!もう、やだ、今すぐ帰りたい。
「…あ、あの、ボギーウッズさんって…その、アルビノ、なんです、か?」
頑張って勇気を振り絞って聞いた。もう、これで死んだら支部長呪う。絶対呪う。早く帰って来ない罰として呪う。嗚呼、帰りたい、帰りたい。暫く沈黙が続いた。

「ぶはっ、やっぱりか!」
笑った…?てか知ってたんじゃないか!なんだよやっぱりって!何で言わせたんだよ!ちくしょー。鬼だ、鬼畜だ。ついでに帰ってこない支部長も鬼だ、鬼畜だ。スタージュン様に言ってやるっ!…まぁ、言ったところで「そうか」としか帰って来ないのは目に見えているんだけどさ。
「やっぱりって、知ってたんですか…」
「あぁ、セドルが言ってたからな」
でしょうねええぇぇぇ!!!心の中で叫びながら「どうなんですか?」と恐る恐る聞き返したら「どうだろうな?」とニヤニヤしながら曖昧な返事が帰ってきた。ボギーウッズさんって絶対タチの悪い方のドSだよな…。
「どうだろうって…」
「んな事、お前には関係ねぇだろ?」
「た、確かにそうですが…その…気になるもん気になるんですよ!」
強く言ってみたら目を丸くさせてまた笑い始めた。というか先から笑われてばかりでなんか悔しい。でもボギーウッズさんの笑顔、可愛いなぁ。
「あの、さっきからそんな笑って、何が可笑しいんです?」
「あ?怒らせちまったか?」
「悪いな」なんて言いながら一人称の頭をぽんぽんと軽く叩いた。勿論まだ笑っているが。
「でもよ、そんな事知ってどうなるんだ?どうにもならねーだろ?此処は美食會だ、他人がどうこうなんて思ってっと、気づいた時には首ぶっ飛んでんぞ。…まぁ、新人だからんな事も思えんだろうがな。」
そしてさっきとは裏腹に穏やかな目付きで優しく頭を撫でてくるボギーウッズさん。そんなボギーウッズさんにドキドキしながらも、乗せてある手を取ってやめて下さいよと言おうとしたら支部長が走りながらこちらへきてボギーウッズさんの被り物を手に取り会議室の中へ思いっきり投げた。なんで!?
「あ、てっめ!!こんの、目玉フェチがっ!!!」
「うっせー!!ヤドカリ萌えがっ!!!」



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(それは冷たく、だけど何処か暖かい)


110925







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