『子龍、一緒に来てほしい場所があるんだ』
そう馬超に声を掛けられたのは今朝修練場で会った時のこと。馬をひき遠駆けにでも行くのだろうと踏んでいた趙雲だったが、だんだん近付いてくる風景に目を見開いた。

(ここは、)

「もっと早く来れればよかったんだが……」

盛りを終え風に命を預けるよう散りゆく桃の花弁。枝に残る僅かばかりの花を見上げ、馬超はその場で立ち尽くし動かない趙雲へと振り返る。子龍、と名を呼ばれ趙雲は一瞬困ったような顔をしたがすぐ微笑んで馬超へと歩み寄る。


「もう一年になるんですね」
馬超の隣で膝を抱えて座る趙雲はどこか遠くを見つめたまま言った。
「覚えててくれたのか……?」
驚いたような馬超の物言いに趙雲は心外だと言わんばかりにむっとした。
「私が忘れるとでも?」


桃の花が満開に咲き誇る季節、ここは馬超が趙雲へ想いを告げた場所だった。一本だけ聳え立つ桃の木がある丘。不思議と落ち着くこの場所を馬超が蜀に降る以前から趙雲は気に入っていた。だがあの日以来この地に足を運ぶことはなかった。趙雲の中でここはまた違った特別な場所となったからだ。恐らく馬超は趙雲がここを訪れていたことを知らない。だから馬超がこの場所に自分を連れて来たのに驚いたのは趙雲の方で、また堪らなく嬉しくもあった。


野に咲く白い花を無造作に摘み取りくるくると指で弄ぶ。そんな馬超をぼんやりと見ていた趙雲に馬超の手が触れた。ふわりと優しい手つきで添えられた自身の左耳辺りに趙雲はそっと手をやる。この感触は先程まで馬超が手にしていた花だろう。

「よく似合う」
そう屈託なく馬超が笑うものだから恥ずかしいと思いつつ趙雲もつられて笑った。風がひとつ。丘を吹き抜け、下ろされた趙雲の黒髪が宙に流れた。それが何かの合図であったように急に真面目な顔をする馬超。その琥珀色の瞳を趙雲は静かに見つめ返す。

趙雲の額に少しかさついた唇がほんの数秒触れて離れた。

「子龍、俺と出会ってくれてありがとう」


俺を救ってくれて――――
小さな呟きも趙雲の耳には届いた。こんなに近くにいるのだ、馬超本人は気付いてないかもしれないが。


「……!!」
滅多にない趙雲からの口づけに呆けているのも束の間、身を預けるよう抱き着いてきた趙雲を後ろ手をついたことで何とか支えた。

「救われたのは私の方かもしれません」
「え……?」

(だってこんな幸せ今まで感じたことがなかったから)


再び唇を重ねた二人を趙雲の髪間から白い花だけが見ていた。


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888踏んで下さった貴方様に捧げます。
ほんっと遅くなってすみません;
の割にね、この出来ですから……!もう笑うしかwそんな糖度も高くねぇ((震
すみませんこんな駄文ですみません
でもリクすごく嬉しかったです!
ありがとうございました!



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