桃色に染まる想い



朝を告げる柔らかな光に目が覚めた。全身を包む気怠さに抗うよう身を起こせば、普段の起床時とは違う風景に不思議な心地がした。

微かに甘い香りが鼻腔を擽り、今までの出来事は全て夢なのではと錯覚してしまうが、首筋の花弁に触れれば昨夜の熱を思い出した体が震えた。それを鎮めるよう己を抱きしめる。


昨晩初めて馬超と趙雲は身体を重ねた。色恋沙汰に疎かった趙雲には初めての体験であった。そのことを素直に告げれば自分でも気付かぬ内に瞳はうっすらと透明な膜を作ってしまった。
情けないが、怖かったのだ。
そんな趙雲を馬超は強く抱きしめた。

額、瞼、頬、首筋―――
情事中馬超は何度も頻繁に唇を寄せた。さすがの趙雲も自分の不安を拭う為であると気付き、それは次第に強張った心を解していった。


視線を落とせば温もりを与えてくれた男が眠っている。いつもは吊り上がった眉も下げられ、規則正しい呼吸を刻むまだ幼さの残る寝顔を眺める。こんなにも無防備な姿を見るのは初めてで思わず笑みが零れた。

「可愛い……」

口を突いて出た単語は馬超が聞いていれば苦い顔をするだろうが、さすがに夢の中までは届かないだろう。

想いを告げられたあの日から彼のふとした仕草、少し不器用な性格、真っ直ぐな瞳…そして初めて向けられた、笑顔。
何もかもが愛おしくて堪らない。
胸の高鳴りを聞きながらそっと自らの指を馬超の手に伸ばす。

これからもっと、いろんな貴方を知りたい

「貴方の傍で―――」


庭に咲く桃のように淡く色づく願いを胸に仕舞い、趙雲は再び寝台へと身を沈めた。



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