すべてのはじまり

(ここは、どこだ……?)
見覚えのない部屋だが、思考を巡らすことを脳が拒んだ。ただぼんやりと家を出た時のことを思い出した。あれから何日経ったのか。

『まーた、喧嘩したの?』
『……岱、お前には迷惑ばかりかけるな』
『どうしちゃったのー?急に』
『……別に、ちょっと出てくる』
『若、これ持ってくといいよ〜!』
『人参……?なんでだ?』
『なんでって道路を歩いてくるお馬さんにあげるためだよ〜!喜ぶと思うけどなぁ』
『そうか!そうだな!!』


(岱……探してるだろうな)

「気がつきましたか?」
漆黒の瞳が俺を覗き込んだ。よかった、と安堵の笑みを浮かべるその人から目を離すことが出来ないでいるとまた声を掛けられる。

「あの、お風呂どうぞ…!早く温まった方がいいでしょうし」

そこで初めて異様な室内環境に気付き目を丸くした。ヒーターとストーブそこまでは分かるが俺に向けて扇風機を回している。スイッチは強。床にはドライヤーが転がっていた。

「ごめんなさい、服気持ち悪いですよね!着替えた方がいいって思ったんですが勝手にするのは、その、どうかと思って……」

風が送られた面は乾いてきているが濡れた衣服は確かに心地悪い。

「……貴方が、俺を?」

「あなたが助けてくれって言ったんですよ?」
そう言っておかしそうにくすくすと笑った。まただ。心臓が早鐘を打つようにうるさく鳴る。こんなことは初めてだ。


「……もう一つ頼みがある」
「??」
「俺をここに置いてくれっ!」
深々と頭を下げた目の前の男が何を言っているのか理解できずにぱちぱち瞬きを繰り返す。顔を上げ不安そうな瞳を向けてだめか?と尋ねてきた。

「少しの間でもいい!だからっ」
「す、少しなら……」
あまりに必死の訴えに承諾の言葉が口をついて出た。
「本当かっ!?」
ぱっと明るくなった表情につられたように笑顔を返す。
「えぇ」
「これからよろしくな!」



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