happy white dayT
「バレンタインのお返し?」
フリティアの問いにイザベルは小さく首を傾げた。
「‥私の作ったあの“チョコレートだったもの”にお返しは不要かと」
チョコレートだったもの‥
その言い方に、薬を手渡された患者が苦笑いした。メアリーは診察室、イザベルは薬の調合を任されたらしい。
「まあ確かに‥チョコレートとしては何故か辛かったが‥もらったからには返さないと」
何故チョコレートが辛かったのかは未だに謎である。舌触りも良くなかったし形も酷かった。それでもフリティアが自室で密かにニヤけていたことは言うまでもない。
チョコレートは確かにあんなであったが、その後に作ってもらったアップルパイはいつも通りの味。フリティアはむしろそちらのお礼がしたかった。
「言われましても…」
少し戸惑うイザベルに、じゃあとフリティアは言った。
「髪飾りでも買ってやるか?」
「イヤです」
即答。
患者たちがクスクス笑いながら二人の会話に耳を傾ける。
「‥何故」
「お金のかかるものはイヤです。それほど身に付けるわけでもないのに無駄ではありませんか」
─あらまあお堅いお嬢さんだこと。
─でもそういうところが良いのよね。
─えー勿体ないわ、せっかくくれると言うのに。
ヒソヒソと患者たちの会話がフリティアに届く。小さくため息をつくと、彼は尋ねた。
「じゃあ、何が良い」
「えっと…」
思い付かない。でも装飾品はイヤ。
「‥考えておきます」
結局、イザベルは決められなかったので先伸ばしにした。