1月11日〜5月12日
手元に集まるのは青い花。
青いドレスに髪飾り、ピアスにネックレス。青に埋め尽くされた彼女に最後に花を差し出した男は、不敵な笑みを称え、優雅に膝を折る。
「どうぞ」
「‥ありがとうございます」
差し出されたのは、真っ赤な牡丹だった。
(紅牡丹は白杖に魅せられる)
「ありえない…」
「ブラック家の子女に赤だなんて…」
「誰よあれ」
「ホワイト家の末弟だよ」
「どうりで」
「いや、敵対する家だからってあれはないだろ…」
囁き声が聞こえる。ほとんどが彼の行為に対する誹謗である。しかしそれらには全く関心がないのか、スティラクスはパーティー会場を出た。
「言われてるぞ」
声のした方向を見るとフリティアだった。パーティーそのものが嫌いなこの男は、いつもパーティー会場を見れる、一番見通しの良いバルコニーにいた。私生児と中傷されることに、未だに慣れないのだろう。
スティラクスは彼の隣に立つ。青に囲まれたアリアが、ただ一つの赤い花に戸惑っている様がよく見えた。欄干にもたれ、スティラクスは肩を小さくすくめた。
「しーらね」
俺は俺のやりたいことをする。
そう言ったスティラクスに、フリティアは疑問に思っていたことを尋ねた。
「‥で」
「ん」
「何がそんなに問題なんだ?」
「は?」
何がって何が。
主語がわからないスティラクスに、あれだとフリティアはアリアを顎で差し示した。やっと意味がわかり、スティラクスはため息をついて理由を答えた。
「‥ブラック家の女に赤はご法度って決まりがあるんだよ」
「何故?」
「ブラック家二代目当主の妹‥つまり天使の“剣”の娘だな、ソイツが赤が好きだった」
知らなかったことに驚いたが、フリティアのことだ、シキタリに興味がなかったのだろう。仕方なく、スティラクスは丁寧に昔話を始めた。
「その娘はある日恋をした。その相手も娘が好きだったが、理由は知らないが結婚できなかったらしい。その相手も赤が好きだった。真っ赤なドレスを娘にプレゼントした後に、相手の男は死んだ。病気だったらしい」
あまり興味はない。よくありそうな悲愛かと眉をひそめるフリティアに、スティラクスは苦笑いを浮かべた。フリティアが他人の色事にとことん興味がないことはよく知っている。
まあ聞けよと、スティラクスは続きを話す。
「それ以来、娘は狂ったように赤に執着し始めた。服を赤くし部屋を赤くし、自分のメイドにも赤を強要した。でも満足しなかった」
なんとなく話がわかってきたフリティアは、それで?と彼に続きを促した。
「ついに娘はメイドを殺して血で赤く染め、満足せずに部屋に火を着けて、炎の中で笑いながら死んだ。屋敷は全焼、本当に真っ赤になった」
「‥それでブラック家の女に赤はご法度、か。何百年も前の迷信に振り回されてるわけだ」
下らない。
一蹴したフリティアに、こいつらしいなとスティラクスは笑った。
「そういうこと」
でもその迷信が何百年も続いたんだから、笑えないだろ。
言うスティラクスに、フリティアは首を傾げた。
「それに対する対抗心か?」
「いや‥」
アリアは、紅牡丹を見つめていた。彼女が何を考えているのかは、ここからでは表情まではわからないので知る術はない。そんな彼女をいとおしそうにスティラクスは見つめ、笑みを浮かべた。
「単純に赤が似合うと思った」
フリティアは、アリアが青ばかり身に付けているので、赤を身に付けた姿が想像できない。だが、赤い牡丹は確かに、アリアに合っている気がした。
「綺麗な赤い紅牡丹…」
囁くように呟く彼に、フリティアは気付かざるを得なかった。
「お前…」
アリアが好きなのか。
喉まででかかった台詞は、しかし言えなかった。寂しそうに微笑みアリアを眺めるスティラクスが、切なかった。
(交わらない“杖”と“剣”の血筋の恋)