おまけ☆
ノックの音にモアはドアを開けた。目の前には、上着のポケットに手を突っ込んだハンスがいた。
「‥単刀直入に聞く。何が欲しい」
「普通本人に聞く?」
クスクスと笑い、モアは髪を揺らす。
「お前のご要望は分かりにくい。レオにバレたら燃やされるし‥」
ハンスが言うと、モアは肩をすくめた。
「決めてない」
「は?」
「だって欲しいもの全部あるし」
「‥じゃあナシで」
「それは無いわよ。本当にダメな男ね」
「悪かったな」
分からない女だと思う。欲しいものがないなら三倍返しだなんて言わなければいい。だがモアはどこか楽しそうで、ハンスはますます分からなくなる。
「飯でもおごるか?」
「フレイムに燃やされるわよ」
「じゃあ何がいいんだお前は」
「さぁ?」
面白そうに言うモアに疲れてしまう。何がしたいのか分からない。」
「‥帰る」
「パーティー出なさいよ」
背を向けたハンスにモアが言った。チラリと後ろを見ると、モアは微笑んでいる。ハンスはそのまま階段を降りた。
「あ」
廊下の角から現れたスティラクスに、何てことないように行き過ぎたら良いものを、不自然に立ち止まってしまう。
「‥モアにお返し、何が良いと思う」
聞かれる前に聞いてしまえ。
ハンスが尋ねると、スティラクスは苦笑いした。
「請求されたんですか?」
「三倍返しと言われたが欲しいものはないと」
「それ‥」
呆れ顔になってスティラクスはため息をついた。
「なんだ」
「‥あの、言わせてもらいますけど、何でそんな残念なくらいに鈍感ですか?ベルといい勝負です」
「は?」
「だから…」
何でわかんないのかなと思いつつ、スティラクスはモアが考えているだろうことを言った。
「お返しはハンス兄がモア様を訪ねる、でしょ」
「‥は?」
言われたハンスは固まる。言われたことの意味が直ぐに飲み込めないらしい。
「鈍すぎ」
まあハンス兄らしいけど。
スティラクスはそう言って笑った。ハンスは呆然としていたが、不意に視線を感じて階上を見上げた。踊り場の欄干に肘をついて二人を眺めていたモアが、楽しそうに人差し指を唇に当てた。
fin.
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