短編小説 | ナノ

happy valentine day 6




人の気配に廊下を見ると、啓晶がいた。手には小さな箱を持っている。


「私を尋ねて来てくれたんですか?」


ルイスが笑顔で問うと、啓晶はフイとそっぽを向いた。


「偶然通りかかったんだよ」


「偶然、ねぇ…」


城の六階の客室に偶然通り掛かるのはよほどのことがなければ無理な気がするのだが。


「偶然来てくれたなら、お茶でもしていきましょう?どうせ私は暇ですし」


「暇じゃないでしょ」


「先ほど会議は終わりましたので」


どうぞ、とルイスはドアを大きくあける。啓晶は躊躇いながらも部屋に足を踏み入れる。椅子に座った啓晶は、箱をギュウと握りしめていて、ルイスは思わずにやけてしまう。


「な、なんだよ」


「いえ?」


ルイスが紅茶を出すが、啓晶にしては珍しく手を出さない。緊張しているのか、手が箱から離れないらしい。


「可愛いですね…」



思わず呟くと、彼女は顔を赤く染め、ルイスを睨み上げた。


「殴るぞ!!」


「どうぞ?そのためにはまず手に持った箱を机に置かなくてはですね」


余裕で返すルイスに、啓晶は腹が立って仕方がない。


「っ…性格悪い!!」


「誉め言葉としていただいておきます」


しかしやり取りで、多少力が抜けたらしい。やっと箱を机に置いた啓晶に、ルイスは尋ねる。


「私がもらっても?」


「好きにすれば」


そっけなく言った啓晶に微笑んで、ルイスは箱を開いた。


「ふふっ…ハート形…」


チョコを一つ取りだし、嬉しそうに呟く。啓晶は、カッとさらに顔を赤くした。


「それしか型がなかったんだよ!!」


啓晶の言葉を聞いているのかいないのか、気にせずにルイスはそれを口に含んだ。


「甘いですね」


「ビターだから苦いよ」


「愛情がこもっているので甘く感じますよ?」


「込めてない!!」


「では‥私になんの情もないのですね」


スッと目を伏せたルイスに、啓晶は慌てる。考えなしに彼を傷つけたかと思い、なんとか思っていることを彼に伝える。


「そ、そうじゃなくて……その、俺なんかに‥好意、持ってくれて、俺のこと…気付いてくれて…嬉しかった、から…王子のこと…き、嫌いじゃないし‥」


「啓晶…」


「だ、だから感謝と言うか…」


「啓晶」


「なに‥キャ!!」


悲鳴をあげてから、俺ってキャアなんて声出るんだと思う。気づけばルイスに抱えられていた。


「な、なななな何すんだ!?」


「一緒にお昼寝」


「ふざけんなー!」


「疲れてるんです」


言って彼は啓晶を抱えてベッドに寝転んだ。パニックを起こす啓晶は、相手が王子と言うことも忘れ、バシバシと彼の肩を叩きまくる。


「一人で寝ろ!!」


そんな啓晶をおとなしくさせる魔法の言葉を、ルイスは知っている。ルイスは、啓晶の耳に囁いた。


「寂しいので」


ルイスが言うと、案の定啓晶は暴れるのを止める。ほくそ笑み、ルイスは啓晶をきつく抱き締めた。


「本当に優しいですね…」


「お前が卑怯なだけだよ…」


「イヤですか?」


「‥イヤ、じゃない」


少し顔を赤らめた啓晶の額に、ルイスは唇を落とした。


「ありがとう」



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