短編小説 | ナノ

happy valentine day 3




翌日、ブラックソード家を訪ね、フリティアの部屋のドアを叩いたイザベルであったが。


「‥入らないのか?」


ドアを開けたにも関わらず、イザベルはいつまで経っても部屋に入らない。と言うより、イザベルは入る気になれない。


「‥すごい数ですね」


床に投げられているのは明らかにバレンタインのチョコだろう。ざっと見ただけで20個以上はある。


「いらないのに押し付けられた」


言いながら、彼は強引にイザベルを部屋に入れ、ソファーに座らせた。


「チョコレート嫌いですか」


「いや」


否定し、フリティアはイザベルに紅茶を差し出した。そして彼女の隣に腰をおろす。イザベルは、ポツンと呟いた。


「‥そんなにあるならいらないですね」


綺麗に包装しようとして失敗し、結局モアがラッピングした箱をカゴから取り出すと同時にフリティアはそれを奪い取った。


「いる。食う、腹減った」


言いながら、ラッピングを剥いで箱をあける。トリュフが綺麗に五つ、箱に詰められていた。思わずフリティアの口元に笑みが浮かぶ。


「チョコレートだったものですから別に食べなくても他の方の‥」


「親しくもない女からのチョコレート食べて誰が喜ぶ」


言いながら彼は一つチョコを口に入れた。


「‥美味しいですか?」


「微妙。チョコが何故辛いんだ?」


「え!」


言われて、自分で作ったトリュフを口に入れる。確かに舌先がピリピリとして辛い。むしろこれは感謝どころか悪意が伝わりそうな贈り物である。


「‥美味しくない」


味見してからあげれば良かった…。


あげるからには美味しいと言って欲しかったし、こんな不味いチョコを渡すくらいなら最初から作らなければ良かった。自己嫌悪に陥ってうつむくイザベルをジィと見つめながらも、フリティアは辛いトリュフを黙々と口に運ぶ。全て完食すると、彼はいきなりイザベルを引き寄せ、膝の上に抱き抱えた。


「こ、」


「アップルパイ食いたい」


驚いて抗議しようとしたイザベルの言葉を遮るようにフリティアが言った。突然の要望に、イザベルは戸惑う。


「今、ですか?」


「ああ。腹減った」


「他の方のチョコレート食べたらいいじゃないですか」


「お前のアップルパイがいい」


淡々といつもと変わらない声でフリティアは言う。イザベルを抱えて部屋を出ると、厨房へと向かう。


「変な黒双様…」


戸惑いつつも、彼女はフリティアのためにアップルパイを作り始めた。



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