短編小説 | ナノ

happy valentine day 2




城を歩いていると、後ろから軽やかな足音が聞こえてきた。振り替えると、啓晶がこちらへと駆けてくる。


「ベール!どしたの?」


「モア様のところに」


「俺も行くー。ドレス返しに来たんだ」


言う彼女の腕には風呂敷包み。二人でモアの部屋のドアをノックすると、直ぐにはいと返事が聞こえた。ガチャンとイザベルがドアを開くと、甘ったるいチョコレートの匂いがした。


「失礼します…あ」


モアではなく意外な人物がそこにいた。真紅の髪がフワリと揺れ、彼女は微笑んだ。

「ベルちゃんこんにちは」


エプロン姿の彼女に、啓晶が首を傾げる。


「誰?」


「ゆ、ユナと言います…」


イザベルの後ろから現れた啓晶を見て、ユナの表情が強ばる。相変わらず人と接するのが苦手らしい。モゴモゴと小さな声で自己紹介をしたユナに、啓晶はいつもと変わらない様子で手を差し出した。


「俺は啓晶」


その手をおずおずと握り返す。
ガチャンと音がして、エプロン姿のモアが現れた。奥の部屋はキッチンだったらしい。甘い匂いが更に強くなる。


「あら、ベルに啓晶。ベルはチョコレートよね、啓晶は‥ドレスね」


「チョコレート?」


啓晶が首を傾げた。


「明日は意中の男性にチョコレートを渡す日よ」

イザベルの分のエプロンを出しながらモアが簡単に説明した。


「‥意中?」


あれ?父上が言ったのと少し違う気がする…


首を傾げたイザベルに、モアがからかうように言った。


「リタの坊やでしょう?」


「ち、違います!!」


「はいはい。啓晶も作る?」


「やだ」


即答。
あげる人いないし、と言って啓晶は興味がないらしい。

突然イザベルが言った。


「アリア連れてきていいですか?」


「良いわよ」


モアが頷いたので、イザベルはアリアを呼びに部屋を出た。

相変わらず興味ないらしい啓晶にモアが言う。


「啓晶、ルイス王子が寂しがるわよ?」


実は今、ルイスがシルメニアから来ていた。塩の貿易関税をグレイとシルメニア間でのみ廃止することが決まり、その調印のためである。一応、啓晶は街の噂でそのことは知っていた。


「べ、別に王子は俺のチョコレートとかいらないだろうし…」


「気持ちよ気持ち。久しぶりに会える機会なんだから」


「まあそうだけど‥」


拗ねたように、啓晶はポフンとソファーに座って膝を抱える。考え、そして顔を上げた彼女は、ルイスとは全く関係ないことをユナに尋ねた。


「てかユナさん?あんた誰にあげんの?」


「えっと‥誰にでしょう?」


「何で自分のことなのに疑問形?」


「すみません…」


しゅんとしたユナに代わり、モアが答えた。


「フレイムよ」


「‥え」


「すみません…」


固まった啓晶にユナは謝る。啓晶は立ち上がり、ユナの袖を引いた。


「やめときなよ、絶対やめときなよ、あの人と一緒にいたら苦労するよ、色んな意味で」


「やっとフレイムに恋人できたんだから変なこと言わないで!!」


モアが叫んだが、啓晶は首を降る。


「いや、あれはダメだよ、性格悪いし」


「レオ様優しいですよ…?」


「いや、性格歪んでるよ、俺の好きな人といい勝負だし」


「啓晶、あなた遠回しにルイス王子を貶してない…?」


モアが突っ込んだと同時にドアが開いた。

「アリア連れてきました」


「ちょっとベル!!私は別にあげる人なんていないから関係ないわよ!」


「いつかのために」


「いつかって…あら?」


ユナに気づいたアリアが首を傾げた。


「すみません」


「まだ何も言ってませんよ。ユナ・リベラル嬢?」


「はい…」


「リベラル?」


聞いたことあるが思い出せない。首を傾げた啓晶に、ユナは更に縮んだ。


「すみません」


「いや、名前反芻しただけだから」


「作るわよ〜」


そんなこんなで、訳あり女五人はチョコを完成させ…た?


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