happy white dayV
「料理?」
「はい」
イザベルからの提案に、フリティアは困ったように首を傾げた。
「教えるのはちょっと…作るくらいなら」
メアリーの家のキッチンに上がり、フリティアはイザベルを見た。
「何が食べたい」
「何でも」
「それ一番困る」
「‥ではハンバーグ」
「はいよ」
頷き、フリティアは棚を探って必要なものを取りだし、料理を始める。イザベルはその姿を椅子に座って眺めていた。
「黒双様は何でもできますね」
ポツンと思ったことを呟いた。貴族としての地位も高く、剣も扱えるし家事も出来る。基本的に無駄なことはしないし、フリティアに対してイザベルは引け目を感じた。振り返らないでタネを混ぜながらフリティアは答える。
「学はないぞ。いまだに読み書きは苦手だ。直ぐに綴りを間違える」
「読み書き‥」
「字が汚くてよくバカにされる」
「そんなの別に‥」
「出来なくても生きていける」
イザベルの言おうとしたことをフリティアは先に言ってしまう。丸めたタネを、油をひいたフライパンにのせると、やっとフリティアはイザベルを振り返った。
「俺もそう思ってた」
微笑んで、それから再びフライパンに眼を落とす。
「字が書けなくても…家の手伝い出来て農作業出来て、まあそこそこコミュニケーションが‥俺は出来なかったけど」
「私は無理ですね。足が悪いから…」
「俺の伯母…メアリー叔母上じゃない、母方のだが、病弱で動けないから機織りしてた。やることはいくらでもある」
ハンバーグが焼けたのか、フリティアはパンを窯に入れた。
「言い方は変だが、肉体的には今の方が楽だな。精神的に磨耗することはあるが」
ハンバーグを皿に盛り付け、フリティアはそれをイザベルの前に差し出す。
「ほら、できた」
「ありがとうございます」
綺麗に盛り付けられたハンバーグの皿を、イザベルと自分の分、それからもうひとつを机に置く。
「何故三人分ですか?」
「匂いに釣られるバカの分だ」
「はい?」
イザベルが首を傾げている間に、焼いたパンを籠に入れてフリティアはそれをテーブルの真ん中に置いた。妙に量が多い。
「なんだお前が作ったのか」
突然の声に振り替えると、ああこの人かと妙に納得してしまう。
「陛下」
「ほらな」
予想していたらしいフリティアはため息をつきながらフライパンを洗う。それを手早く終わらせ、フリティアが椅子に座る。
「さて…」
「いただきます!」
フリティアが何かいう前に、フレイムは手を合わせて料理を食べ始める。
「‥遠慮を知れ」
「無理」
即答し、パンを頬張る姿に、イザベルは微笑んだ。
「ユナ様にお返ししましたか?」
「勿論。テディベア」
「アリアは‥」
「牡丹だろ、どうせ。ルルだし」
フリティアが言う。ほら、とイザベルにパンを渡し、彼も自分で作った食事を食べ始めた。
「確かに、そうですね」
春の始めにポカポカと、なんだか楽しいな。イザベルはそんなことを思い、小さく微笑んだ。