短編小説 | ナノ

happy white dayU






「お返しねぇ…」


「はい」


相変わらずこの家の庭は美しい。3月の初め、パンジーや春蘭が既に咲いている。


「いいじゃない、装飾品で」


紅茶のカップを持ち上げ、アリアは綺麗に首を傾げる。イザベルはため息をついて首を振った。


「お金がかかるのは‥」


「リタ兄様お金持ちよ?」


貴族だし騎士爵あるし【王の腕】だし


確かに、フリティアからすれば装飾品などは高価なもののうちに入らないのかもしれない。が、イザベルにとってはそんなことは問題ではない。


「アリアは、何をお返しに?」


逆に尋ねれば、彼女はニコリと笑う。


「父上や兄様には花請求してるわ」


「お花‥」


まあアリアらしいと言えばアリアらしい。


でも私がお花なんてもらってもな‥


花瓶もないし、何より長持ちさせる方法を知らない。イザベルは小さくため息をついた。


枯らす自信はあるが愛でる自信はない。


「どうしましょう…」


「出かけるとかもアリだと思うわよ?」


「いつも一緒に出かけてるではありませんか‥」


基本的に、どこに行くにも彼がついて来る。街の人も最初は驚いていたが、今ではすっかり定着してしまい誰も驚かない。


「そうだったわね。じゃあ食べ物とかは?ケーキとか奢らせるなら安上がりじゃない?」


「食べ物‥」


言われても、特に食べたい店もない。
だいたい彼は外食がそれほど好きではないようである。


実際は、外食がイヤなのではなくイザベルと外食がイヤなのである。理由は簡単、店と言う閉鎖空間に長時間いて、誰かがイザベルにちょっかい出そうとするのでは。ただそれだけである。


「黒双様、料理出来ますよね」


ふと思った。料理する姿は見たことがないが、基本的に何事もそつなくこなせる男である。料理が出来ても不思議ではない。


「そうね。かなり上手いと思うわよ」


案の定、アリアは頷いた。


「‥はぁ」


ため息が漏れる。アリアが首を傾げた。


「どうしたの」


「私、女の子なのにチョコレート一つマトモに作れないのに…男の人なのに料理出来るなんてズルい‥」


「仕方ないわよ。あなた公爵家の娘なんだから」


「あなたもでしょ‥」


それなり出来ると言うことは知っているのでなんだか悔しい。アリアは、しかし苦笑いだった。


「私は‥ロネシア兄様が色々と問題あったから‥」


「?」


「いつか話すわ。それよりどうするの?」


話が戻る。はぐらかされた気もするが、あえて追及はせずにイザベルはまた本題に戻った。


「どうしましょう」


やっぱり思い付かない。あーもうヤダ、とイザベルにしては珍しく投げやり。アリアは笑いながら、また紅茶に口をつけた。


「‥兄様に作らせたら?」


「何を?」


「ごはん」


「‥お返しに?」


「ええ」


我ながら良いアイデアだとアリアは小さく笑った。

しかしイザベルは微妙な表情。


「‥それ私が惨めです」


「でもお金かからないし兄様も文句言えないし、てかあなたが手を血まみれにしないで済むから喜ぶし」


「‥むしろ教わりたいです」


「ああそうしなさいよ。料理教えてって」


男の人に料理を教わる…


「‥惨め」


「じゃあ、他に何か思い付く?」


「‥いいえ」


全く思い付かない。冷めてしまった紅茶の表面を見れば、相変わらず無表情な自分の顔。しかも前髪が跳ねている。気付かなかった。今さら前髪をいじりはじめたイザベルにクスクス笑って、アリアは紅茶を飲み干した。


「じゃあそうしなさいよ」


「‥そうします」


頷くしか、なかった。




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