スズちゃん
スズは大学の二回生。社会科の日本史専攻で、成績は優秀。
ただ無口無愛想で一匹狼みたいなタイプ。サバサバした性格で女子にも大人気。
実はファンクラブがありますが、本人は知りません。
午後の授業が終わり、帰ろうとすると社会科の棟の入り口に先ほどのハーフ野郎が待っていた。
「‥なんだ」
「あげる」
そう言って彼が差し出したのはスケッチブックと飴。
飴は無視して、スケッチブックを捲れば、色鉛筆で描かれた風景画だった。ほとんどが大学構内。
「‥ありがとう」
フワッと笑みを浮かべる。絵を眺めて、彼女は言った。
そばを通りかかった学生がその笑顔を見てキュンってしたが、もちろん二人は知らない。
「あなたは嫌いですが、あなたの絵は好きですよ」
「そりゃ良かった」
「‥油絵は描かないんですか」
「描かない」
「‥残念」
だが言うほど残念そうではない。スケッチブックを鞄に仕舞うと、用はないとばかりにスズは彼に背を向けた。
「スズが、結婚してくれたら描くかもよ?」
彼が言った。
振り返ったスズは一つ小さなため息をついてから言った。
「かも、なんて曖昧な条件で結婚なんか出来ないです」
「つまり、描くよって断言すれば結婚してくれるの?」
その言葉に、一瞬だけスズの瞳が揺らいだ。
「‥知るか。自身で考えて下さい」
速足に、スズは帰って行った。
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