(▼実家での兄ちゃんたち)
「ほな行ってきますー」
そのへんの近所に出かけるみたいに廉造はへらりと笑い、扉を閉めた。
昨日までは嫌でも毎日同じ家に住んで顔を合わせとったうざったい弟。そいつもいっちょ前にこの春高校生になり、俺らがそうしてきたように祓魔塾に通うため京都を離れた。見送るとき、言葉じゃよう言い表せんもやもやした感情があった気がする。それが何かはめんどいので考えんようにする。
しばらく経ったある日、俺はなかなか寝付けんくて深夜に体を起こした。縁側に座ると、さらさら風が吹いて気分が良くなってくる。あー三味線引きたいな、せやけどこんな時間やとお父が怒るよな。
「金造」
そう考えてたら、柔兄が缶ビール片手に近づいて来た。
「柔兄、どないしたん」
「明日非番やからな」
隣に座り、プシュッと封を開けるとぐびぐびと旨そうに飲み出す。ほんまにどないしたん。
「お前もどうや?」
「あ、おおきに」
ひとくち貰って、口の中に独特の苦味が広がった。
「廉造は元気にやっとるやろか」
ポツリ、柔兄が言った。
「ふん。拾い食いでもして腹こわしとるんちゃう」
「ハハハ相変わらずやな」
笑ったあと、目を細めて言葉を続ける。周りは暗いけど、月明かりで柔兄の表情はよく見えた。
「早いなーちょっと前にお前が出てったかと思ったらもう廉造やて」
「柔兄まだ25やろジジくさいで今の」
「ハハハ明日久しぶりに手合わせしよか」
「あっうそうそやっぱさっきの無しですまだまだピッチピチやんな」
ピッチピチて表現古いやろ、とツッコミが入る。
「…小っさかった頃もあったんやってしんみりしたりもするけど、こうやって酒飲んでしゃべり合うのもええなあ」
金造もあと5年の辛抱やで、と言われて普段やったら別に俺あいつとそんなことしたないしと思う。
思ったけど、何故か返事は
「…おん」
と肯定やった。きっとあれやな、今夜は星空もキレイやし柔兄と久しぶりにゆっくりしゃべれてテンション上がっとるからやな。
end