※家族パロ
※ナチュラルに2人に子供がいます。
※こうのとりさんが運んできてくれたんだよ。







「わっ」

ボンっという破壊音とともに愛娘の驚いた声が聞こえ、臨也はあせって台所に向かう。

「静也?なにして……」
「ああ?なにがダメだったんだ?」
「ば、ばくはつした……」

少し早足で台所に行くと、エプロン姿の静雄が訝し気に電子レンジを覗き込んでいた。同じくエプロンをつけた娘の静也も驚いた顔をして立ち尽くしている。

「……なにしてるの2人して」
「いや、静也がクッキー作るって言うから一緒に作ってんだけどよ……って、なんで写メとってんだよ」
「いや、ちょっと幸せを形に残しとこうと思って。親子クッキングがこんなに萌えるものだったとは……って、なんだって?手作り?……誰にあげるのかな?」
「優くん。おなじクラスの」
「捨てなさい」
「アホか」

急に真剣な顔をして小さな娘の肩をつかんで諭す臨也の頭を、静雄がぺんっとはたく。本人は軽く手を振ったにすぎないのだが、その衝撃はかなりのもので、体が軽くふらついた。

「お前その親バカなんとかしろよ」
「だってシズちゃん!俺だってねぇ、女の子を持つ親として将来それなりの覚悟をしなきゃいけないってわかってるよ?まぁ俺が認める男じゃないと許さないけど。認めないけどね。でもまだ小学生だよ!?覚悟固める暇さえないよ!早すぎる!近頃は小学生でも進んでるとか言うけどお父さんそんなん許さないから!」
「お前の思考が早すぎだ」

はぁ、と静雄はため息をつく。

「誰も今そんな覚悟しろなんて言ってねーよ。クッキー渡すだけだろうが」
「わかってない!わかってないよシズちゃんは!手作りがどんな意味をもつがこれっぽっちも理解してないじゃないか。しかも小学生の高学年というやっと異性を意識しだした多感な時期に手作りクッキーなんて!ぜったい調子にのるに決まってる。周りに冷やかされたりしてお互いを意識しちゃったりしたあげく、もしかしてあいつ本当に俺のこと好きなんじゃね?とか勘違いしだすんだから!」
「アホか」

詰め寄って耳元で訴えると静雄は顔をしかめた。

「シズちゃんは手作りの威力がわかってないんだよ!高校のときに手作り弁当で人のこと落としたくせにさぁ。なんなの?無自覚?」
「お、おとした覚えは、ねーよ」

喚く臨也の隣で静雄の頬がほんのり染められていく。そんな両親のやりとりにもかまわず、娘は気を取り直して生地づくりに再挑戦していた。いつものことに気にしていない様子だ。

「とにかく、娘が頑張ってるっていうのに応援してやる気はないのかお前は」
「あるよ。さすが俺たちの子は何してても可愛いしね。不器用なところもシズちゃんゆずりでキュートだ。そんな愛娘が作ったクッキーがほかの奴の手に渡るなんて!」

ああ、と天を仰ぐ臨也に静雄は苦笑する。臨也はこう見えても面倒見がいい良い父親だ。ただその愛情表現がうざいだけで。

「どうしてもあげるっていうなら家に連れて来なさい」
「いやだ。連れて来たらイザヤくん意地悪するもん」

過去の事例を思い出したのか、娘はぷうっと頬をふくらます。静雄から責めるような視線を感じるが、気にしない。

「それに優くんはいい人だよ。こないだわたしがイジメられてたら助けてくれたの」

だから、これは、そのお礼のクッキーで、べ、べつに好きとかじゃないんだからねっとシズちゃんゆずりのツンデレで顔を赤らめる娘に危機感を覚える。
やばい。これはひょっとしなくても本気じゃないか。

「あとね、シズちゃんのことかっこいいって言ってくれたんだっ」
「捨てなさい」

へへ、と照れ臭そうに笑う娘に再度無情な言葉を投げつける臨也に、静雄は何も言わず、再度頭をはたいてやった。

「だってシズちゃん!危ないよ!狙われてるよ!」
「危ないのはテメーの頭だ」
「娘だけじゃ飽きたらず妻にも目をつけるなんて、マセガキが……っ」
「誰が妻だ」

ギリギリと奥歯を噛み締める臨也に静雄は呆れる。ああ、どうしてこううざいかな、と対処方法を検索してみる。
すると、同じことを思っていたのか、娘が臨也を睨みつけて、言い放った。

「もうっ!イザヤくんうるさいっ向こう行っといて!」

言われた瞬間の臨也の顔に、珍しく同情を覚えた静雄であった。




ピピっと音がして電子レンジが止まった。どうやら今回は爆発せずに焼けたようだ。

「わっ、焼けてる!」
「成功だな」

嬉しそうに振り返る静也に静雄も微笑む。やったな、とその小さな頭をなでてやる。

「もう食べれる?」
「まだ熱ちーぞ?」

はやくはやくとねだる娘にちょっと待てと諭し、少し冷めたところで鉄板から1枚クッキーをはずしてやった。

「ほら」
「ん、ありがとシズちゃん、あーん」

渡してやるとそのクッキーをすぐにこちらに差し出すものだから、静雄は驚く。

「優くんにやるんじゃないのか?」
「うん。でも、いちばん最初はお父さんにあげるって決めてたんだ」

いちばんに感謝してるのはお父さんたちだから、と照れる娘に、静雄の顔も赤くなる。
臨也をたしなめてはいたが、静雄自身、娘の初めての手作りを他のヤローに……と思う気持ちがなかった訳ではないのだ。娘に微笑まれて胸の奥がぎゅっとなる。

俺もたいがい親バカだ、と苦笑した。

「はい、あーん」
「あー」

手を精一杯伸ばして食べさせようとする娘が可愛いくて、しゃがんで食べさせてもらう。噛んだ瞬間に、口の中に香ばしさが広がった。

「うん、うまい」
「ほんとに?ほんとのほんとに?」

真剣に聞いてくる娘に吹き出しそうになりながら、静雄は頷く。

「ほんとのほんとに、だ」
「っ、イザヤくんにもあげてくるっ」

パァっと顔を明るくして、リビングでふて腐れているであろう臨也の元に向かう娘を、眩しそうに見送る。

ああ、幸せってこーゆーことを言うんだな。と、臨也と一緒になってから何度も感じてきたことをまた思った。




片付けを全部すましてリビングに戻ると、臨也が床に倒れて死んでいた。

幸せのあまり気絶したのだろう。静雄は苦笑する。
静也は自分の部屋でラッピングをどうするかあれこれ悩んでいるようだった。

「おーい、いざやー。いざやくーん」
「ちょ、なにそれ可愛い。もう一回言って」
「きめぇ」

ぺちぺちと頬を叩いて呼んだ瞬間にガバッと起き上がる臨也に、静雄は辛辣な言葉を送る。臨也がひどいなぁと胸を押さえるが、その顔は幸せそうだ。

「もらったか?」
「うん。おいしかったよ」

さすが俺たちの娘、と静也の部屋を見やる。それにまた微笑ましい気持ちになりながら、静雄は手に持っていたクッキーを臨也に差し出した。

「ほらよ」
「………え?」
「これは俺が作った」
「え!」
「クッキーは、俺も、……初めてつくった」

もっとさりげなくやろうと思っていたのに。なにやら恥ずかしさが込み上げてきて顔を逸らした静雄に、シズちゃん!と叫んで臨也が抱き着いてくる。

「ラブ!シズちゃん、ラブっ!」
「……わかったから、早く食え」






















幸せ家族計画

(シズちゃんも食べていい?)
(…………静也が寝たらな)




†††††

娘の名前は笑うところです。