学級、学級、学級崩壊。

学級崩壊進行中。


「いざやぁぁぁああああ!」

ばりーんがっしゃーん

粉砕した窓から冬の冷たい風がびゅうびゅう入り込むのに身震いした。新羅はやれやれと苦笑する。
窓がなくなるのは今年で何度めのことだろう。今まではとくに気にならなかったが、これからの季節はキツイものがあるなぁなどとのん気に考える。

「窓割らないでよシズちゃん、さむい」
「うるせぇっ」

なぜ2人を同じクラスにしたんだろう。教師たち自身が1番後悔していることをしみじみ思う。
まぁこの2人の場合、他人の教室だろうと関係なく壊しまくるんだろうけど。それを考えたら壊れる教室が1つだけの方がいいのかな?
そんなことを考えている合間にも3分の1ほど机が使用不可能な状態にされていく。ほとんどの生徒は廊下に避難しているようだ。
めずらしいなぁ、と新羅は思った。
学校の備品を壊すのはいつものことだが、静雄だって配慮はするようで、ここまで破壊の限りを尽くすようなまねはしないのに。
ギリギリと臨也を睨みつける静雄と、いつもの挑発するような笑みではなく無表情で静雄と対峙する臨也。
ふむ、と新羅は頷いた。どうやら2人はケンカをしているようだ。毎日殺し合いのケンカをしている2人に対してケンカをしているとは言い得て妙だが。普段のケンカはじゃれ合いに似たところがあると新羅は思っている。そうじゃなくて、今日の2人は本当にケンカしているように見えた。

「……あのさぁシズちゃん」
「うるせぇ喋んなっ」

呆れたように近寄る臨也に、近ずくんじゃねぇっと静雄が喚く。臨也はため息をつきながら頭をかいた。


純情、純情、純情少年。

純情少年暴走中。


臨也が一歩近づく度に机が一個投げ飛ばされる。
がっしゃーんとまた1枚窓ガラスが割れた。
僕の机が投げられるのは嫌だなぁ、と2人からできるだけ自分の机を引き離す。まったく、今回は一体何が原因なんだか。
しかし、思案はしても心配はしない。この2人のことに首を突っ込んでも骨折り損だ。新羅は傍観者に徹することに決めている。

「やれやれ、あいかわらずシズちゃんには言葉が通じないんだから」

困っちゃうよ、と大袈裟に両手を持ち上げて首をふる。その仕草でさらに静雄が苛立つのがわかった。無言で机の足を握りしめる。

「こわいなぁ」

言葉と裏腹に薄く笑って静雄から距離をとると、ガラスのない窓からグランドへ飛び降りた。地面までけっこう高さがあるが、心配する必要などないことを新羅は知っている。こういう脱出方法を臨也はよく取るのだ。

「待ていざやぁぁぁあああ!」

追って静雄も窓から飛び降りる。窓枠に手をついたため、ガラスが掌にざっくり刺さったのが見えた。ああ。またあとで手術かな、と新羅は予測する。まぁ、自然治癒してしまう前に静雄が戻ってくれば、の話だが。

戻ってこないだろうなぁと新羅はグランドを見下ろす。

静雄たちが下で言い争っている。臨也があれだけ熱くなる様を、新羅は静雄関係以外では知らない。
しばし口論したあとで、臨也は静雄の傷に気付いたようだ。手を引いて、血の流れているであろう掌へ口づける。静雄はびくりと肩を揺らしたが、振り払う気配は感じられなかった。大人しく臨也を見下ろしている。

やれやれ、新羅は苦笑する。

痴話喧嘩に学級を巻き込まないようにしてもらいたいね。

臨也に手を引かれて大人しく校門の方へ歩いていく静雄のうしろ姿を見送りながら、新羅は自分の机を定位置に戻した。


純愛、純愛、純愛関係。

純愛関係続行中。





















学級崩壊

(恋愛感情暴走中)




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BGM:学級崩壊/相対性理論