※バレンタインSS
※びっくりするくらい甘いです
※キャラ崩壊してます






目を覚ますとケータイが粉砕されていた。

「………なにこれ」

逆パカした上にひどく圧力をかけられた様子のそれは、もう到底使えるような状態ではない。
臨也は寝ぼけた頭で手に取る。指の形が残るまでケータイを握り潰せる人間なんて思いつく限り1人しかいなかった。
来ているのだろうか。静雄が自発的に臨也の家に来るなんて珍しい。
少し驚きながら臨也は起き上がる。窓の外はもう暗くて、壁の時計を見ると9時を回っていた。
しまった。寝すぎだ。
昨日から今日の昼ごろまでぶっ通しで仕事をしていたので少し仮眠をと思い横になったのだが、こんな時間まで惰眠を貪るつもりはなかったのに。
後悔しながらリビングを開くとしかし、そこに探している金髪の姿はなかった。

「あれ、帰ったのか……」

いつもなら臨也が起きるか仕事を終わらせるまで、時間を潰しながら待っていることが多いのに、と拍子抜けする。
静雄は臨也の家の大きな液晶テレビがお気に入りのようで、臨也そっちのけでテレビに夢中なこともよくあるというのに。まぁ大概見るのは弟の出演している番組なので気に入らないが。
そんな静雄のためにより大きくした液晶テレビも、今はその役割を忘れたかのように沈黙している。
来てからそんなに時間がたってしまったのか、それにしてもいつ頃………と目線を移動した瞬間、予想だにしないものが臨也の視界に入ってきた。

「え…………」

机の上に可愛らしくラッピングされた小さな袋。
透明なそれは、リボンを解かなくても中になにが入っているのかすぐにわかる。チョコレートだ。

「うそ………」

呆然と手に取りながら、つい先日の何気ない会話を思い出す。

『ちょうだいよ、チョコ』

そう言った臨也に、バカか、と一蹴した静雄の顔はどこまでも冷たかったというのに。

「しかも、これ、………手作り?」

溶かして固められただけの簡単な作りのそれは、なんの飾りつけもないが、その不器用な様が明らかに手作りで、しかもどこの店でも見つけることのできないであろう文字がいびつに踊っている。

『ノミ蟲へ』と。

嘘だろ、とまたつぶやいて、臨也はかぁぁっと赤くなった。
だって、まさか、あのシズちゃんが手作りって。
あんなに呆れた顔をしていた、あのシズちゃんが、バレンタインチョコレートって。
うわ、とこぼして、思わず顔を手で覆う。体温が熱い。
どんな顔をして作ったのだろう。
どんな顔で材料を買って、どんな顔でラッピングを選んだのだろう。
どんな顔して渡そうとしたのだろう。
自分の発言も忘れてのん気に寝こけている臨也を見て、どう思ったのだろう。
いま彼は、どんな顔を―――

たまらなくなって、臨也はコートとチョコレートをひっつかんで部屋を飛び出した。
降り積もった雪に転びそうになるが、走る。
いつの間に雪が降ったのかも知らなかった。ホワイトバレンタインなんて、意外とロマンチストな静雄が喜びそうなのに。
考えて、なんだか笑えた。息が白くなって空に消えていく。
目が覚めてから静雄のことばかりしか考えていない自分がおかしかった。

「まぁ、いつものことか」

それに彼も今日は臨也のことばかり考えていたに違いない。
そして、たぶん今も。
はやる気持ちを抑えて電車に飛び乗る。

さて、へそを曲げているであろう愛しの彼の機嫌をどうやってとろうか。

とりあえずはこの冷え切った体を暖める、熱い口づけをねだった後で。















Melty Kiss

(溶けるような愛をちょうだい)