「あっつい………」

窓から射し込む太陽光にうんざりしながら、臨也は机に突っ伏した。
あついあついあつい。
ホントに地球どうなってんのこの暑さ。地球温暖化って現実だったんだね。死んじゃいそう。でもそもそもの原因は人間で、自分たちを繁栄させようとした結果破滅しちゃうなんてやっぱり人間ておもしろいなぁ。

暑さのせいかそんなどうでもいいことが頭の中をうずまく。
そもそもクーラーあるのになんで電源つけないかなぁ。設置してる意味ないじゃん。
臨也は自分の役割を忘れた電化製品を睨んだ。
生徒を堕落させないためだか知らないが、これでは逆効果もいいところである。
周りを見渡せば臨也と同じように机に突っ伏している生徒が何人もいた。教員自身も汗だくで授業を進めてる。
しかし机にうなだれても涼しくなるはずもなく、返って蒸されて暑さはますばかりだ。
臨也はのそりと起き上がって顔を上げた。
前の席にはだらけもせずちゃんと教員の話を聞く静雄の姿。

シズちゃんてホント変なとこ真面目なんだよねと少し呆れる。しかもきちんと授業を聞いてるわりに成績が悪いところを見ると、真性のバカなんだねきっと。逆に同情しちゃう。無理やり人間の中にまぎれるからからだよ。

真面目なのにねぇと静雄の授業態度をじっと見つめる。
だらけてはないものの暑さは当然感じているようで、首のうしろに幾筋か汗がつたっているのを発見した。
特に意味なんてない。
気が付けば臨也の指は静雄の首筋に伸びていた。
何してるんだろうと思いながらも、指は勝手に静雄のうなじの汗をなぞった。

瞬間、

「ひゃあっ」

突然あがった静雄の奇声にクラスが凍る。
その原因である臨也さえ、時が止まった。

「へ、平和島………?」

教員が黒板に書く手を止めて静雄を振り返れば、ほかの生徒もおそるおそるといった様子で見つめる。

「す、んません」

授業を妨げたことを詫びる言葉が響き、その情けない声に臨也はぶはっと吹き出した。
シズちゃんがぎっとこちらを睨みつける。その顔は真っ赤だ。
さらに笑いがこみあげてきて、臨也は再度机に顔をうずめた。

ごほん、と気を取り直すような教員の咳払いが響き、教室はまたいつもの授業風景に戻っていく。
シズちゃんもさすがに授業中に暴れる気にはならないのか、大人しく机に向かう。
その態度にますます臨也の笑みは増す。

あのシズちゃんが耐えてるなんて!

新しいオモチャを見つけたように胸が踊り、臨也は再度静雄の背中に指を這わす。

「……っ」

すうっと背中の真ん中をなぞると、静雄の肩がゆれた。が、それだけで逆上してきたりはしてこない。
ナイフも刺さらないくせにこんな刺激には敏感なんだなぁと嘲笑いながら、臨也は好き勝手に指を這わす。

『バカ』

『アホ』

『おたんこなす』

『かいじゅう』

『しね』

書く度に意味を理解したのかシズちゃんの肩はぶるぶると怒りで震えるが、キレたりはしてこない。

ありゃ、いつの間にそんな人間らしい理性をもったの。

何を書いても怒り狂って自分をぶん殴ろうとしてこない静雄がつまらなくて、臨也はいったん指を止める。
なにを書いたら彼は怒るだろうか。

『シズちゃん』

なにを書いたらこっちを向くのだろう。

『しずちゃん』

なにを書いたら………

「しずちゃん」

こっち、向けよ。

『  』




ガッターンと派手な音がして椅子が倒れる。
生徒が一斉に振り返るのがわかったが、そんなのは目に入らない。驚きのあまり椅子をひっくり返しながら振り返った静雄の顔は、先程より比べものにならないくらい真っ赤で。

たまらず臨也はまた吹き出したのだった。



















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(『スキ』)