※『キスよりも早く』パロ
※ゲロ甘・キャラ崩壊
カタッ、カタカタカタッ
「やべっ」
吹きこぼれた鍋を静雄は急いで止めた。けっこう音が響いてしまったが大丈夫だろうか。慌てて寝室の方に目をやるが、起きて来る様子はないようだ。そっとタメ息をつく。
「あ、ぶねー」
最近はこういうミスも少なくなったと思ったけど、やっぱ気を抜くとダメだな。静雄はふあぁとあくびを噛み殺した。
「おはよシズちゃん」
「うわっ」
いつの間に入って来たのか、臨也が後ろからきゅっと抱き着いてきた。驚いた静雄はピンっと伸びる。
「お、折原…っあっつ!」
「っ、かして」
振り返ろうとした弾みで鍋に手を触れてしまい、あまりの熱さに飛び上がった。その静雄の手を取って、臨也はすばやく流水にかける。
「あ、わるい……」
「そんなんいいから。……ごめんね、大丈夫?」
「お、おう。つか、べつにすぐ治るしこんなん」
「そういう問題じゃないでしょ」
呆れたようにタメ息をついて、臨也は静雄の指先に口づける。
「もう君だけの体じゃないんだから、さ」
奧さん、と上目遣いで見られて、かあああっと体温が上昇していくのがわかった。いつものことながらどうしてこいつはそんな臭い台詞を平然と紡げるのだろうか。そしてそれに否応なしに赤面してしまう自分に、舌打ちしたくなる。
『奧さん』という言葉が恥ずかしすぎて否定したいが、それもできない。
何故ならそれは事実だから、だ。
このおかしな生活のきっかけは、両親を失くした俺(16歳)と弟(4歳)が親戚中をたらい回しにあい、うんざりして家出して路頭に迷っていたところを、担任であるこの折原臨也(28歳)が捜しまわってくれたところに帰還する。
「はぁっ………探したよ、平和島くん」
「んだよテメェ」
「帰ろう」
息を切らして、スーツをボロボロにさせながら手を差し出してくる臨也に静雄は眉をひそめる。どっから学校に連絡が入ったのか知らないが、ご苦労なことだ。それでも、静雄にとっては余計なお世話以外の何物でもなかった。
「帰るとこなんてねぇよ、家飛び出してきちまったし。……学校も辞めるつもりだから放っておけよ。俺はこいつ育てて生きていくから」
「何言ってんの未成年が」
見下されるような言葉に、カチンときた。
そもそも静雄と臨也は担任と担当生徒という関係であるにも関わらずあまり仲がよろしくない。というか、静雄は一方的に臨也のことを毛嫌いしていた。まあ、このころの静雄は大人という人種そのものを憎んでいる節もあったのだが。臨也にしても、静雄に対してどこか一線を引いたようだったのに。
「うるせぇな、てめーに関係あんのかよ」
「あるよ、担任だもの」
「あぁ?じゃあ何か?担任だったら何でもしてくれんのかよ?」
「………帰るとこがないんだったら、俺の部屋においで」
冷静さを保つ臨也に、静雄は自分の怒りがヒートアップしていくのがわかった。
「中途半端な同情すんじゃねぇよっ」
静雄は弟の幽をつれて踵をかえす。さすがにそれには慌てたのか、臨也が静雄の腕を引いた。
「同情じゃないっ」
「っ、あーそうかよ!じゃあ何か!?俺とこいつ養ってくれんのかよ!?」
「ああしてやるよ!!」
「……………………へ、」
「おいでっ」
そのあと呆けた静雄を臨也は自分のマンションにつれていき、風呂に入れてごはんを食べさせ、養子縁組の書類を出し、本気で静雄と幽を家族にしたのであった。
「おま………本気か?その年で2人子持ちとか……」
「なに言ってるの、子供にするのは幽くんだけだよ」
「……あ?だってさっき俺の分の養子縁組……」
「君は俺の妻」
「……………はぁ!?」
「今日から俺らは夫婦だから。よろしくね、奥さん」
不敵に微笑んでウインクにする臨也にツッコミを入れるだけの余裕もなく、静雄は開いた口がふさがらなかった。
かくして、この奇妙な家族が出来上がったのである。
「お、折原……いい加減はなれろよ……」
「家では『臨也』って呼べって言ったでしょ」
火傷の跡にしつこく唇を滑らせる臨也を止めさせようとするも、話をすり替えられてしまった。
「い、い、………いざや」
「いい子」
ご褒美とばかりに舌を這わせられて、傷口からのピリピリとした痛みが走り、ぞくぞくする。
「ん、ちょ、いざ……っ」
「うー、にぃ、さ、?」
がっしゃーん!
「かかかかか幽!おはようっ!」
寝室から弟の幽が起きてきたのに気づいて、静雄は臨也を吹っ飛ばした。
「ん、おはよう、にいさん」
まだ眠いのか目をしょぼしょぼさせている幽に微笑みながら、頭をくしゃっと撫でてやる。
「おら、顔あらって来い」
コクリと頷いて洗面所へ消えていく幽を見送って、ほっと安堵する。まったく変な汗かいちまったぜ。
「………ひどいシズちゃん」
床に突っ伏した臨也がしくしく泣いているのが著しくうっとうしい。
「テメーが台所で変なことするのが悪い」
「変なことって?」
「っ、」
意地の悪い視線を送られて、何故こんなに自分は墓穴を掘ってしまうのだろうと軽い自己嫌悪に襲われる。
「いいからっ、お前も早く顔あらって着替えてこいっ!」
「ふふ、はーい」
邪魔しかしない臨也を部屋に追い返して、静雄はほてる顔をハタハタと冷ましながら、玉子焼き作りを開始するのであった。
「平和島くん」
「い、―――っお、折原、なんだよ」
廊下で呼び止められて静雄は振り返った。咄嗟に臨也と読んでしまいそうになり、慌てて訂正する。
「コラ、折原じゃなくて『先生』でしょ」
「……なんすか、先生」
からかい半分に諭されて、静雄は不機嫌な声を抑えようともせずにそれに応える。大人だからだろうか、臨也は決してワタワタしたりしない。何かにつけては思わせぶりな発言をしてきて、静雄を慌てるのを楽しんでいるようだ。全く腹の立つ奴である。
「今日、日直だったよね?これ皆に配っておいてくれる?」
「……いいっスけど」
クラス分のノートを渡されて、静雄は素直にそれを受け取る。
「ありがとね。……ああ、そうそう」
「?」
すれ違い様に近寄られて少しドキリとしつつも耳を傾けた。
「見えてるよ」
ココ、と首筋を指されて、静雄はキョトンとする。しかし、臨也が何を指しているか理解した途端、ぼんっと顔を真っ赤にした。今朝のだ。
「――――ッ」
バッと反射的に首筋を押さえたせいで、ノートがバサバサと床に落ちていく。
「あーあーもー何やってるの平和島くん」
仕方ないなぁとノートを集めていく臨也に、誰のせいだと言葉にならない怒りがつのる。性質が悪いにも程がある。
「お前な………っ」
「今日ケーキ買って帰るから」
「あ?」
「楽しみにしておいてね」
そう微笑まれて、静雄は何も言えなくなる。結局、憮然とした顔でノート拾いを手伝うしかなかった。
「ただいまー」
臨也の帰宅に気づいた静雄は、未だ不機嫌な顔を作りながら玄関まで出迎える。
「………おかえり」
「……?どしたのシズちゃん。今日の新妻コス気に入らなかった?」
「……っ、今日ももクソも、気に入って着てるときなんかねぇよっ!」
結婚するに当たって、臨也から出された条件が1つだけあった。
『必ず新妻コスプレをして夫を出迎えること』
最初に言われたときはこいつ変態なんじゃないかと若干引いたものだが、訂正しよう。今ではドン引きしている。臨也は正真正銘の変態なのだ。
最近では新妻というワードに関係なくナース服やメイド服なども着さされるが、どういう所で購入してくるのか甚だ疑問である。
というわけで今日は『新妻風フリフリエプロン』衣装を見に纏っていた。臨也のコスプレストックの中では、比較的普通の方といえよう。となりにはお出迎えに出てきた幽が同じ仕様のエプロンを着けていて、その姿は兄の欲目を差し引いても可愛い。
「久しぶりに見るなぁ、そのエプロン」
「……テメェが指定したんだろーが」
「まぁね」
昼の余韻を引きずったまま、無愛想に返す静雄に、臨也は苦笑する。
「1番最初に着てもらったやつだからさ、今日にピッタリかなと思って」
「あ?」
「あーお腹すいたっ、今日は何?」
静雄のおデコにただいまのちゅうを落とし、幽の手を引いてリビングに入っていく臨也。どういう意味だ?と怪訝に思いながら、静雄もその後を追った。
「ん、おいしかった」
ごちそうさま、と臨也が手を合わせる。その隣で幽がコクリと頷いて、同じようにしている。
「本当に料理が上手になったね、シズちゃん」
「べつに……」
面と向かって言われると、恥ずかしくて何と答えてよいかわからず、静雄はそそくさと食器をシンクに持っていく。
「ここに来たばっかの頃なんて何度キッチンを爆発させたことか」
いらないことまで言い出す臨也に、幽がまたコクリと頷いた。
「う、るせぇなっ、ちゃっちゃと皿持ってこい!俺は早くケーキが食いてぇんだよっ」
自分の手料理を喜んでくれるのが嬉しくないわけではないのだが、如何せん恥ずかしい。
食べ終わった食器を台所に持ってきた幽の頭を撫でてやって、静雄は冷蔵庫からケーキを取り出した。
宣言通り臨也が買ってきたホールケーキは甘党の静雄じゃなくても心惹かれるもので、幽も目を輝かせている。
臨也の家族になってからこっち、幽のこういう顔を見ることが多くなった。静雄はそれが嬉しい。
「そういえば、どうしたんだ?急にケーキなんて」
ケーキ皿をセッティングしながら、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。なにか祝い事でもあっただろうか?
紅茶の用意をしていた臨也は、その問いに意味ありげに微笑んだ。
少し待っててと言って自室に引っ込む。そうかと思うと、すぐに出てきて、静雄を促した。
「座って、シズちゃん」
「?」
幽くんも、と肩を押されて、静雄と幽は素直に席につく。
「記念日……って言うのも恥ずかしくなるくらいの短さだけどさ、」
そう前置きして、臨也は小さな正方形の箱を取り出した。
「……え、」
その箱が何かわからない程、静雄も鈍くない。
「俺たちが家族になって、今日でちょうど1ヶ月だ。今までバタバタして、ちゃんと渡せなかったから」
ゆっくりと箱を開けると、そこには上質そうなシルバーリングが収まっていた。
「改めて……俺のお嫁さんになってくれる?」
そう言って見つめてくる瞳はあまりにも真摯だ。静雄はどうしたらいいかわからなくなって思わず目を反らした。顔が熱い。
「…………バカじゃねぇの」
「バカって」
「…………………もう、」
「ん?」
「もうなってる………だろ」
我ながらもう少し可愛い気のある返事ができないものだろうか。
チラリと見るとしかし、臨也は嬉しそうに微笑んでいた。その顔に、言葉につまる。
「手、出して」
言われるままに左手を差し出す。臨也は箱から指輪を取り出して、静雄の薬指にすっと通した。
「っ、」
指輪がはめられたというだけで、なんだか自分の手ではないように見える。
「…………お前は、俺でいいのかよ」
かすれた声が出た。自分で聞いておきながら、指が震える。
「シズちゃんが、いいんだよ」
はめてくれる?と伸ばされた臨也の薬指に、静雄もおずおずと指輪を通した。
「ありがとう。………幸せにするから」
そう言って、指輪のはまった指に口づけてくる臨也に、静雄は泣きそうになった。
もう充分幸せだと、伝えるにはどうすればいいだろう。
言いようのない幸福感が抑えきれず、この日静雄は、久しぶりに子供のように泣きじゃくった。
誰よりも君を愛す
(よーしよし大丈夫だよー)
(ひっく、ひっ……こどもあつかい、すんなっずびっ)
(した覚えないけど?)
(ひ…っ!ば、どどどどこ触ってんだよ!や、ちょ……っ)
††††
原作ではちゅーもまだですが、たぶんこっちはちゃっちゃとヤることヤってます。
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