「シズちゃんラブ!!」
静雄が帰宅すると同時に臨也が絡み付いてきた。
正直鬱陶しい。
「ただいま。離せ。」
適当にあしらって追い払うと、臨也は恨めしげにこちらを睨む。
「俺がせっかくお出迎えしてあげたのにさぁ、そんな返しってある?」
「てめぇの言い種はいちいち白々しいんだよ。」
今日は取り立てが詰まっていたため昼も食べられず空腹が限界だ。
キッチンに入って、食料を確保する方が臨也より優先だった。
「酷い!俺本気で言ってるのに!!」
「んぁー。」
「聞いてないよね?!」
臨也の作ったらしいハンバーグを温めながら適当に返すと臨也はさらにヒステリックに怒った。
とは言え文句を言いながらもバターライスをせっせとよそうのだから、大して怒っている訳では無いようだ。
「シズちゃんは全然分かってないよ!これだって愛が無かったらこの俺が作るわけないんだからね。」
確かに最近臨也は静雄がジャンクフードばかりなのを憂い、よくご飯を作って静雄を待つようになった。
「あー、それはさんきゅな。」
珍しく素直に礼を言うと臨也は一瞬止まり、ため息をつく。
「ほーんと卑怯だよねぇシズちゃんて・・・。」
「あ?」
「いや別に?」
まだ何か言ってほしそうな臨也を完全に無視して静雄はさっさと席につく。
追って臨也も席につき、同時にいただきます、と手を合わせた。
「ん、うめぇ。」
「良かったね。」
はぶてたままハンバーグをつつく臨也を見て思う。
好きだの愛してるだの自分はそう簡単に口に出来ない。
実際付き合い始めるときに1度だけ言ったが、それ以来一度も無い。奇跡的な1回さえはっきり伝えたわけでは無かった。
臨也はそれとは全く対照的だ。付き合った事で箍が外れたかのようにほぼ毎日好きだのラブだの言いまくり、死ねが好きに取って変わった。
もちろん嬉しくない訳ではないのだが、愛の告白も数打たれると薄っぺらくなるだけだ。
最初の頃は照れて怒鳴っていたが、最近は専らスルーに徹している。
臨也の言葉が薄くなる度に、ふと不安がよぎる。
このまま気持ちまで薄くなって、最後には無くなってしまうのではないか。
臨也が今静雄を好きなのは信じられるが、この先ずっととなると静雄には常に小さな諦めがあった。
「シズちゃん?」
「ん、何だよ。」
臨也が窺うようにこちらを覗き込んで来る。
「何だよって、呼んでも気付かなかったじゃない。」
「呼んだか?」
どうやら知らない内に深く考え込んでいたようだ。
「なんか最近ぼーっとしてる事多いよねぇ。」
「気のせいだろ。」
またハンバーグに意識を戻し、臨也から視線を外す。
静雄の思考がばれたら考えていることが現実になる気がしていた。
「はぁ、シズちゃんはドライだねぇ。」
すでに食べきった臨也はコーヒーを入れに行く。
俺がべたべたしても気持ち悪いだろと言おうとしたが、ちょうどハンバーグを口に詰めた所だったのでやめた。
臨也は戻ってくると、コトリとカップをテーブルに置き、正面から静雄を見て笑った。
「ねぇシズちゃん。俺の事好き?」
余裕を含んだ綺麗な笑みで、わざとらしく笑うが、その顔に静雄はぴくりと反応する。
不安や怖れを押さえて自分を取り繕う時、臨也はほんの少し右の眉が下がる。
まぁ臨也が不安や怖れを抱く事などまずそうそうないのだが、たまにこういう質問をする時は、大抵この顔だ。
静雄はこの時の方が実は嬉しい。
素直に愛されてると信じてもいいかと思えた。
不安を感じる程度には臨也は静雄を大切に想ってくれている。
静雄は無意識にふわりと笑っていた。
取り繕った不安しか出せない自分の恋人。
絶対なんて無いのだが、多分静雄が臨也を見捨てる事は無いだろう。
何をらしくない事を考えているのかと内でふっと自嘲を溢し、静雄は臨也をちらりと見て答えを返す。
「・・・・・・嫌いではねぇ。」
静雄のひねくれ方もそう簡単では無い。
「素直じゃないなぁ。」
そう言いながらも嬉しそうに笑う臨也を見ながら、静雄はなるべくこれが長く続くように願った。
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(「好きだよ」って言われるより
あなたに愛されてると思う瞬間は
不安そうな顔で「オレの事 好き?」って聞いてくる時)
深イイ話の後藤真希さん作3行ラブレターより。
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