椛Drrr!! | ナノ




「シズちゃーん。よーし良い子だね。可愛いなぁシズちゃんは。」

臨也に呼ばれ、マンションに入るなりそんな声が聞こえて体が強張る。

恐る恐る部屋に入ると、臨也はソファに座っていた。

「臨也・・・?」

背を向けていた臨也は一度振り返ったが、あぁ来たの、と言ったきりすぐにまた視線を手の中の何かに移す。
呼んだのは自分のくせに素っ気ない反応をする臨也に少しむっとしてむくれる。

「・・・何してんだよ?」

ソファーの後ろから覗き込むと、臨也は手の中の小さな白い機械に話し掛けていた。

「シズちゃーん。」

「・・・んだよ。」

「え、あぁごめんね。シズちゃんに言ったんじゃないから。」

こちらを向きもせずにひらひらと手を振る臨也。

自分の勘違いに狼狽えて顔を赤く染めるが、確かに今臨也はあの気持ち悪い呼び名を口にした。

「・・・っ今呼んだじゃねぇか!」

「ちょ、シズちゃんうるさい。シズちゃんの声が聞こえない。」

臨也の迷惑そうな声に、ぷつりと頭の中で音が聞こえた。

「意味わかんねぇんだよっ!!」

がっと臨也の手の中の何かを引っ掴み、奪い取る。
手の中でみしりと壊れる一瞬前の音がした。

しかし、画面を走り回る柴犬が目に入り、とっさに理性を総動員して力を抜く。

ゲーム機ががしゃんと音を立てて床に落ち、右手は奇妙に折れ曲がった状態で固まっていた。

何とか握りつぶさずにすみ、はぁーっと大きく息を吐いた。

「あーっ!俺のシズちゃんが!!」

臨也が叫んでゲーム機を拾いあげると、壊れていないかあちこち確かめる。

「はぁ、一応無事かな。もう、気をつけてよねシズちゃん!シズちゃんに何かあったらどうするの?」

理解しがたいが、臨也はゲームの犬に自分と同じ呼び名をつけているらしい。
本当に理解できない。

「何でそんな名前つけてんだよ!」

「え、だって俺、シズちゃんって名前だけは気に入ってるし。別に問題無いでしょ?俺が人間のシズちゃんにおすわりだのお手だの、ましてや可愛い、良い子とか言うはず無いじゃない?」

薄笑いで見上げて言い連ねる口調に、馬鹿にしているのがありありと表れている。

「それとも何?シズちゃん勘違いしちゃうの?」

鼻で笑われ、キレた。

「んな訳ねぇだろ!ふざけんな!俺はただその猫撫で声でふざけた名前呼ばれんのが胸糞悪ぃんだよ!」

ふーん?と臨也が笑う。
こいつがこういう笑い方をする時はろくな事が無い。反射的に体が身構える。

「・・・じゃあ、これから犬のシズちゃんは静雄に変えるよ。それで文句無いでしょ?」

「・・・あぁ・・・う、ん?それ、何か違わねぇか・・・?」

「何が?」

何がと聞かれればはっきり答える事は出来ないが、何か矛盾している気がした。
だが結局言葉が見つからずに黙ってしまう。

「別に問題無いでしょ?ねー静雄?」

臨也に呼び捨てにされるのはどこかむず痒い。
顔が熱くなるのを感じながら、そもそも自分が呼ばれてるのでは無いのだから放っとけばいいのだと自分に言い聞かせる。

「静雄、可愛い・・・こっちおいで。そう・・・いい子だね静雄。ふふ、そんなに俺の事好きなの?」

臨也の口が静雄と発音するたびに体が勝手にびくついてしまう。
嬉しそうに笑ってCGの犬を撫でたり話しかけたりする姿をそっと覗く。
画面の静雄は本物とは違い、素直で可愛くて、体全体でに臨也への信頼と愛情を示していた。
イライラとそのかん高い鳴き声を聞いて舌打ちする。

「静雄、おすわり!・・・そう、よく出来ました。はいごほうび。じゃあ伏せ!よーしいい子だね。可愛いなぁ・・・静雄、大好・・・。」

「うるせぇ黙れ!!」

耐え切れずに叫んだ。
二人の間にしんとした空気が漂い、機械とは思えない可愛らしい鳴き声だけがリビングに響く。

「どうしたのシズちゃん?俺は静雄に言ったんだよ?」

臨也がゲーム機を置いてソファに膝立ちになり、立ち尽くして俯く静雄を覗き込む。

「・・・恥ずかしい?可愛いって言われると照れるんだ。おすわりとか言われて褒められて、いたたまれない?・・・かーわいい。」

「・・・・・・っ!」

何も言えなかった。
臨也の言葉はいつも冷静な判断力を奪う。
こんな事を言われているのに黙っているしか出来ない。

「あ、それとも・・・静雄に妬いちゃった・・・?」

「・・・っ違ぇよ!!」

思わず顔を上げて叫んだ。こんなの丁寧に本心を伝えたようなものだ。
自分に呆れ、臨也に腹を立て、訳がわからなくなって顔を紅潮させる。思わず俯いたら視界まで潤んで来た。

臨也はそんな静雄を見て心底嬉しそうにくすくすと笑った。

「シズちゃん、何で俺がこの子にシズちゃんとか静雄ってつけたと思う?」

臨也がそっと頬を挟んで、俯いた俺の顔を上げさせる。

「あのね、どっちも俺の好きな名前なんだ。」

「・・・・・・名前だけは、だろ・・・?」

口に出すととうとう涙が落ちた。
もうどうでもいいか。

「名前と正反対の中身も。」

囁くように言い、臨也は俺の頭を引き寄せた。さらに目尻に口づけて涙を吸い取り、笑う。

「ご満足ですか?女王様?」

「・・・知るか馬鹿。」

死ね、と言って自分から唇を押し付ける。
普段なら絶対にしないが、頭ん中がぐちゃぐちゃで自棄になっていた。
臨也の驚いた顔が面白かったからまぁいいやと思った。





「そういや何で今日呼んだんだよ。」
「え、静雄見せようと思って。」
「やっぱり計画的かよ。マジで死ね。」








**************
こんなのも考えましたが・・・。↓↓




「おすわりは?・・・そう、静雄いい子だね。はい、ごほうび。じゃあ静雄、ちんち・・・。」

「黙れええぇっ!!!!」






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