椛Drrr!! | ナノ




臨也はプリンを小さな口で頬張っている静雄を見ながら思案していた。

「服が必要だよねぇ。」

「ふぁ?」

静雄が目だけでこちらを伺う。
顎からプリンが垂れそうになっている事には全く気付いておらず、臨也は当たり前のようにそれを舐めとった。

「何すんだばか!!」

静雄は真っ赤になって喚くが、臨也に宥めるように頭を撫でられて、さらに赤くなり黙ってしまう。
からかいも虐めもしない臨也は静雄のペースを狂わせ続ける。

「いつまでもそのぶかぶかのカッターでいるわけにもいかないでしょ?」

「・・・いつまでもって、この薬いつまで続くんだよ。」

当然な疑問を静雄が口にすると、臨也はいつもの嫌味な程綺麗な笑顔を浮かべ、堂々と言った。

「わかんない。」

「はぁ?!」

「いやー、シズちゃんの体って麻酔や薬、効きが悪いじゃない。だからかなり多めに入れたんだけど、まだ戻る気配が無い所を見ると、この薬とは相性が良かったのかな?」

笑いながら暢気に話す臨也に静雄はもう何度目か知れない殺意を覚えた。

「お前・・・ほんと、死ねよ。」

「いやいや、まさか俺もこんな事になるとは・・・!」

大袈裟に両手を広げる臨也はわざとらしさを隠そうともしていない。
静雄の口からは呆れと諦めのため息しか出なかった。

「という訳で、さっき波江に買ってくるよう言っといたからそろそろ来ると思うんだ。」

と、言い終わらない内に玄関のチャイムが鳴った。

「あぁ、来たみたいだね。」

呆気に取られる静雄を置いて、臨也は足早に玄関に向かった。

「私はどっかの運び屋じゃないんだけど?」

苛立ちを露に大手百貨店の紙袋を差し出す波江を笑顔で向かえ、臨也は嬉しそうにその袋を覗き込む。

「まぁそう言わないでよ。はい、これ報酬。」

差し出された封筒はおつかいにしてはかなり分厚い。
封筒の中身をちらりと確かめ、波江は蔑みを込めて鼻で笑う。

「しかし貴方もつくづく変態よね。私は相応の報酬さえ貰えば貴方が何をしようとどうでもいいけど、さすがにこれは気持ち悪いわよ?」

「嫌だな、君の弟君への歪んだ愛情には負けるよ。」

一瞬空気が凍り付くが、何事も無かったかのように事務的なやり取りに戻る。

「じゃぁご苦労様。あとは約束通り二週間休んでいいよ。」

「どうも。ごゆっくり?」

波江は最後の言葉を意味ありげな視線と共に残して帰った。
報酬の長期休暇を弟に費やしに行ったのだろう。

臨也はチェーンまできっちりかけると、足取り軽くリビングに戻る。

静雄はすでにプリンを食べ終わり、ソファにちょこんと座ってテレビを見ていた。

「シーズーちゃん!」

「んだよ。気持ち悪ぃ。」

静雄の悪態にも笑顔で応え、臨也はごそごそと袋を漁る。
静雄も眉間に皺を寄せながらも紙袋の音に反応して、ちらちらと臨也の手元を伺う。

「シズちゃんそのままじゃ風邪引いちゃうでしょ?はい、これに着替えて来てね!」

薄い紙に包まれたそれを笑顔で差し出して臨也はちょこんと小首を傾げた。
静雄は警戒して臨也の顔と包みを交互に見遣る。

「え、ここで着替えたいの?下着もあるけど、シズちゃんがどうしても俺に脱がせて欲しいならご期待に添えてあげなきゃね。はい、ばんざーい。」

即座に包みを引ったくり、静雄は洗面所に飛び込む。

そして5分後。

「て、めぇ・・・ウジ蟲!!」

「あ、遅かったねシズちゃん。着替えられた?」

体の半分だけ覗かせて、臨也を怒鳴る静雄は、セーラーカラーのワンピースを着て、その裾を精一杯両手で引き下げていた。

臨也は一瞬目を見開き、言葉もなく口元を押さえて震える。

「笑ってんじゃねーよばか!!これ女ものじゃねーか!!」

「いや誤解だよシズちゃん!笑ってなんかないよ!ただ口元押さえてないと色々出ちゃいそうで・・・。」

「吐きそうな程気持ち悪いならこんなもん買ってくんな!!」

さらに勘違いを重ねて涙目になる静雄は必死に自分の体を隠した。

「シズちゃん違うから。気持ち悪くなんか無い。むしろその逆だよ。ほら、可愛いから出ておいで。」

「可愛い訳ねーだろ!!」

「いいから、ほら。」

傍に寄って手を取ると、ようやく静雄は渋々出て来た。

短い裾を必死に下げ、2・3歩進んだものの足を隠すためにその場にへたり込んでしまう。

顔を真っ赤にして涙目で体を震わせるその姿に、臨也は満足気に笑みを深くさせた。

「シズちゃん、すごくよく似合ってる。ほんとだよ。」

「似合ったって嬉しかねぇんだよっ!!」

臨也のフォローは何の意味も成さず、むしろ静雄の羞恥心を煽るだけだ。

「大体丈短すぎんだろ!いやそもそも女もの買ってきてんじゃねーよ!!」

「あれー?まだ何か残ってたみたいだね。」

大きな声で言い、臨也は紙袋からもう一つ包みを取り出し破くと、セーラーと同じ色のショートパンツを取り出した。

「・・・テメェ、ぜってーわざとだろ?」

「そんな事無いよー。なんでも人を疑ってかかってたら、立派な大人になれないよ?」

「お前にだけは言われたくねぇよ!!」

ショートパンツを奪い取りさっさと身につけるが、上の丈が長いため動いた時に裾から見える位で端から見た様子はやはりワンピースだ。

「・・・。」

「あれ?どうしたのシズちゃん??念願のズボンじゃない。」

静雄はしばらく腑に落ちない様子で考え込んでいたが、舌打ちをして臨也の臑を蹴り飛ばした。

「・・・っ!」

「つべこべ言ってもしょうがねぇ。さっきよりはマシだから我慢する。」

「じゃあ何で蹴ったの・・・っ!」

「何となく。」

「酷い!」







「kids ●iorの数量限定セーラーカラーとショートパンツ。しかも別に包めだなんて、考えなくてもどうする気なのか分かるわね。」

帰りの車の中で波江は嫌悪感を露に呟く。

「もしかして悪いことしたかしらね?」

ふむ、と波江の思考は一瞬静雄への同情に至ったが、次の瞬間には愛しの弟に薬を使ったらどうかという議題を真剣に悩むために占拠された。









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