「・・・ただいま・・・。」
仕事から帰り、疲れた体を引きずりながら扉を開けるとふわりとスパイスの香りがした。
「あっ・・・おかえり。」
ぱたぱたとスリッパで現れた月は、水色のエプロンをつけている。
「・・・ただいま。何?」
「えっと・・・最近外食とかコンビニばっかりだったから、あの、不味いかもしれないけど、あ、初めて作ったんだよ。それで・・・。」
「だから何?」
言い訳を続ける姿につい苛ついて、きつい言葉を吐いた。
月は傷ついた顔を一瞬見せて、すぐ誤魔化すように眉を下げて笑う。
「うん、ごめん。あの・・・カレー作ったから、食べてくれ・・・下さい。」
傷つけられるのを恐れながら、一生懸命言葉を紡ぐ姿は可愛い。
なのに口からは勝手にため息と、はいはいという気のない返事が零れた。
「今準備するな。」
それでも嬉しそうに笑って、小走りにキッチンに向かう月は強い。
部屋にはいるとカレーの良い香りが充満していた。
「手伝う?」
「あ、いいから!座ってて!ね?」
キッチンを覗くと月が慌てて体で中を隠そうとしたが、隠しきれていない。
あーぁ、キッチンぐちゃぐちゃじゃない。
床には野菜の皮やら切れ端が散乱し、流しは何にそんなに使う事があるのかというほど調理器具に溢れている。
台の上には使った物がそのままだ。
すぐに押し返されたため、それ以上は見えなかったが、かなり悪戦苦闘した後が見てとれた。
どんな物が出てくるか分からないなと覚悟を決めたが、月が持ってきたものは、見た分にはごく普通のカレーだった。
「どうぞ・・・。」
下を向いておずおずと差し出され、スプーンを手に取る。
全く味を想像出来ないものを口に入れるのは六臂も躊躇してしまう。
しかし月の指にべたべたと貼られた漫画のような絆創膏がふと目に映り、固まる六臂の体を動かした。
目を閉じて勢いに乗せて口に放り込む。
月はカレーが口に入るのを神妙な面持ちで見つめた。
「あっま!!!」
「えっ?!」
カレーと呼んで良いものか迷うが、それは香りは確かにカレーなのに口に入れた瞬間に甘味が一気に広がった。さらに後味もべったりと残り、何度唾液を飲み込んでもなかなか消えない。
「ご、ごめん!お前辛いの好きだから味見して辛めにしたんだけど・・・。」
「これが?!」
思わずお皿を指差して叫び、言ってすぐに後悔した。
月がウサギなら耳が垂れていただろう。犬なら尻尾を丸めていただろう。
そのくらい分かりやすくしゅんと落ち込んでしまった。
「あー・・・いや・・・。」
まただ。いつも自分はこうだ。
何て言おう・・・ごめんね?ありがとう?美味しいよ?どれも違う。それはただ場を取り繕ってるだけだ。
何て言えば・・・・・・。
「あーもー・・・。」
愛ってのは何でこんなにめんどくさいんだろうね?
六臂はおもむろに皿を掴み、一口口に入れる。
やっぱり甘い。
もう一口。
「ろ、ろっぴ・・・食べなくていいから・・・。」
「うるはい。」
何で林檎が入ってるわけ?テレビCMに影響されすぎ。
甘みに舌が痺れてじんじんする。
こんなもの、月が作ったんでなきゃ誰が食べるのさ。
そして一気に最後まで食べきり、スプーンをカランとお皿に置いた。
「・・・ごちそうさま。」
気まずくて目を見れないまま間食し、お皿にむかって手を合わせる。
月が何も言わないので横目で見ると、月は涙目で微笑んでいた。
こんな事位でそんな幸せそうな顔しないでよ。
見てられない、とため息をつき、俺は月の頭を少し強引に引き寄せてその唇に噛みついた。
************
あれ、何でこんな甘くなった・・・?
月たんの口調が安定しない。
あと、カレー味のキスは嫌よね。私は嫌です。
うちの六臂さんは不器用ツンデレ攻です。月たんは健気受。
二人とも一生懸命なのにいつも噛み合わない。でも好きでたまらない。そんなカプが好き。
これも人間設定ですが、その内派生組のロボ(?)設定も書きたいですね。
ではではー。
- 14 -
戻る
椛部屋Top
Top
前 次