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「シズちゃん、はいこれ。」

ソファーで寛ぐ静雄に臨也は笑顔でマグカップを差し出す。

「んだこれ?」

「ホットココアだよ。シズちゃん好きでしょ?」

静雄と臨也がお互いの家を行き来するようになって三年。
今やいるのが当たり前で、飲み物なんて飲みたければ何も言わずに勝手に飲む。

それをわざわざ作って持って来ただけでもかなり怪しい。

静雄は目をすがめて臨也の顔を見つめる。

「今度は何企んでやがんだ?」

警戒に身体を強張らせる静雄を安心させるように臨也は静雄の肩を軽く撫でた。

「俺がいつもいつも企みの元行動してるとでも思ってるの?ただ最近忙しくて全然一緒にいなかったから少しサービスしただけだよ。」

ココアの甘い香りが静雄を誘う。

「飲んでくれないの?」

臨也は微笑んで小首を傾げるが、長い付き合いでなければ分からない程微かに臨也の眉が下がっていた。

「・・・ちっ・・・。」

静雄はがりがりと頭をかき、引ったくるようにココアを取ると、三口で飲みきる。

「・・・熱ちぃ。」

「そりゃそうでしょ。馬鹿だねぇ、猫舌のくせに無理して。火傷したんじゃない?見せてみな?」

不機嫌そうにしながらも素直に口を開ける静雄に臨也が小さく笑う。

「氷取ってくるから待ってて。」

マグカップを手に席を立つ臨也の後ろ姿を見ながら、静雄は気味の悪い優しさに身震いした。
その身震いに何か妙な感触が混じるが、静雄には何がおかしいのか分からない。

「ほらシズちゃんこお・・・り・・・。」

氷を入れたグラスを持って戻って来た臨也の顔が固まる。

「どうし・・・ん?」

口を開いて静雄は自分の咽から出た声に驚いて止まった。

「な、なんでこんな声高いんだ・・・?」

「いや、シズちゃん声より気にする事あるんじゃない?」

「は・・・?」

意味が分からず、首を傾げて臨也を見上げた所で、かなり角度をつけなければ臨也の顔が見えない事にも気付く。

「臨也・・・なんかでかくねぇか・・・?」

臨也は何故か赤くなった顔を隠すように手を当て、目線を逸らした。

「シズちゃんが小さくなってるんだよ・・・。」

言われて自分の体を見ると、ぶかぶかのカッターが肩からずり落ちた。
袖も精一杯伸ばしてもまだまだ余る。

「な、んだ・・・これ・・・?」

臨也は静雄を見ないようにしながら携帯を取り出した。

「・・・もしもし、波江?アレどういう事?・・・いや、一緒じゃないでしょ。年齢と筋力じゃ意味が違・・・嬉しいとかそういう問題じゃなくて頼んだ薬と違うって言って・・・波江?なみ、あ!ちょっと!」

切れた、と呟いてソファーに携帯を放り投げると臨也はため息をついた。

「おい、薬って何の事だ?」

何やら考え込んでいる臨也は静雄の言葉を完全に聞き流している。

「うん・・・まぁでも、これはこれで・・・アリだな。」

うんうん、と頷いて一人納得した臨也は静雄に向き直った。

「まぁ細かい説明は省くけど、本来俺が波江に頼んだのはシズちゃんの力を50分の1にするものなんだよ。いつもは断られる色んな事を非力なシズちゃんにやってもらおうっていう計画だったんだけど、波江にとっては力を50分の1にするよりも年齢を5分の1した方が手っ取り早かったみたいだね。」

矢継ぎ早に話されて静雄は呆然となる。
そんな静雄をうきうきと自分の膝に乗せ、臨也が顔を覗き込む。

「大丈夫?シズちゃん。」

明らかに弾んだ声が静雄の頭を覚醒させた。

「とりあえず殴らせろ。」

顔は届かないので目の前のお腹に小さな拳を叩き込む。

「うっ・・・。」

小さく呻き、臨也の額に汗が浮かぶが、骨も肉も無事なままだった。
臨也はまじまじとお腹を見つめて摩り、その手でぽすぽすと静雄の頭を撫でる。

「今のシズちゃんは4・5歳って所かな。力は一般成人男性より少し弱い程度。それでも子供にしたら化け物だけど、一応体の組織はまだ子供に近いって事か。・・・俺は波江に感謝しなきゃいけないのかもね。」

にやりと笑う臨也から言い知れない恐怖を感じ、咄嗟に逃げようとしたが、いとも簡単に抱きすくめられた。

「今ならシズちゃんって名前の方が似合うんじゃない?」

この異常事態を完全に楽しんでいる臨也に必死で抵抗するが、体の違いはどうにもならなかった。

「離せこの・・・!」

「あははは、シズちゃん弱ーい可愛ーい。」



その後波江には、一ヶ月の休暇と約束の三倍の金額が振り込まれる事となる。











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