番外編 | ナノ
■ ちょっと昔の話しをしてみようか。

俺が初めて秋ちゃんと出会ったのは、僅か一年前、高一の事。
高校の物理学で俺と同じ部活に入っていた健二が、よく妹のように可愛がっている子が居ると毎回毎回言ってくるのがきっかけだった。今までコイツは一人っ子というイメージがあったから、近所の子供であれ、小さな子供を相手にするなんて思いもしなかった。
そこで初めて俺は、コイツ妹居たっけ?と自分の頭の中にある情報を疑った。今まで一人っ子って感じだったが、いきなり兄貴みたいな面をして最初は正直引いた。なんかロリコン的な意味で。

「あ、そうそう。昨日秋がさ…」

ほら、この通り。まあ、一人っ子だったからっていうのもあるかもしれないが、コイツは本当に妹が出来たらシスコンになる。確実に。何を話しても二言目にはその健二の言う“秋ちゃん”が絡んでくる。コイツ、俺と会話する気無いな、なんて当時思った。
近所の小さい子を兄弟みたいに可愛がるのは誰でもある事だとは俺も思うぜ?だけど、健二みたいになる奴は少数だな。ってか寧ろ居るのだろうか。健二をここまで夢中にさせるくらいだ。流石の俺も気になってしまう。

「そんなに言うんだったら、俺にも紹介しろよ秋ちゃん」
「…っえ、」

おい何だその顔は。何だ今の間は。明らかに今の顔は、お前に紹介するのかよって感じだったよな。心の広い俺でもその顔を見た瞬間、グサッと来たよ。
すると、それが健二にも伝わったのか、「ご、ごめん。つい…」と謝られた。おい、“つい”って何だ“つい”って。

「じゃあ、今日会ってみる?」
「っお、マジで?!会ってみる会ってみる!」

健二の事だから「いつかね」と言われるかと思ったが、まさかの今日会わせてくれるとは思ってもみなかった。だから俺マジでビックリー(笑)
一気にテンションが上がって、今日の部活でやる事を早く終わらせる勢いで健二に言えば、頬を引きつられ苦笑を返されてしまった。

…………
………

「確か、この時間は秋も部活から帰ってくる頃だな」
「確かバスケ部だっけ?」

インドアの部活動の俺達とは無縁の部活。秋ちゃんはどう考えてもアウトドア派。休み中も外へと出て遊んでいるらしい。俺も小学生の頃は秋ちゃんみたいに外に出ては跳ね回ってたなあ。春はお花見や凧揚げ、夏は市内のプールに行ったり、海に行ったり、秋はひたすら体を動かして、冬はかまくら作ったり、ソリしたり雪合戦や雪だるまを作っていた。だが、高校生になった今、どうも外に出るのが疲れて完璧なインドア派。

「うん、ホントは陸上部が良かったらしかったけど、無いらしくって」
「ふは〜…恐るべしアウトドア…でも何で陸上部?」
「走るのが好きらしい」

これはまた珍しいタイプも居たものだ。走るのが好きだなんて、将来マラソン選手にでもなるのだろうか。なんて苦笑を浮かべていれば、それが健二に伝わったらしく丁寧に説明までしてくれた。
小学一年生の時の話し。初めての運動会で一年生も駆けっこに参加した頃だった。秋は赤組で白組と三人ずつ交互に並び、スタートというピストルの銃声が鳴り響いた瞬間に皆は一斉に走り出す。秋以外に選ばれた赤組は白組に抜かれていて、かなりピンチだった。だが、秋はそれでも走り抜き、一人、また一人と抜いて行き、やがては一位を取った。

「へえ、スゴいじゃん」
「うん。それで皆からスゴいって言われてやがては走るのが大好きになったんだって」
「褒められて伸びるタイプだな」

確かに褒められて気分が悪くなる奴なんて居ないなあ。走るのが好きでバスケ部だとかなり有利なのではないか?と俺がそんな事を考えた瞬間だった。隣で歩いていた健二がいきなり「あっ」とどこかを見ながら声を上げてきた。
何だ?と俺もそちらへと目線をやれば、近所の公園に目が行った。そこには数人の子供達が居て、何やら追いかけっこをしていた。元気が良いなあ、なんて見ていれば、健二が急に歩き出し、公園へと入ろうとする。それを見た俺も急いで健二の後を追って公園へと入った。

「おい、健二どうしたんだよ急に…」
「秋ー!」
「え…」

まさか、あの公園に健二の言う秋ちゃんが居たのか。そう思いながら健二の横に並んで、近付いてくる女の子を眺めてた。段々近付いてくるその女の子を見ている内に自分の心拍は自分でも分からないくらいに上がってきた。「何ー?」と健二の目の前まで来たその女の子は、自分が想像していたより若干違っていた。
髪はやはりスポーツをやっている所為か、かなり短く、身長も低い。そして、何より…

「(可愛いなあ…)」

健二が夢中になるのも分かるくらいの可愛さ。健二、今までロリコンとか思ってきてごめん。健二に呼ばれ、こちらまで来る時も駆け足。本当に走るのが好きなのか、納得してみたり。健二の横で秋ちゃんを見れば、若干頬を染めて健二を見上げる秋ちゃん。これは、もしかして…と思っていれば、不意に彼女がこちらを向いてきた。

『誰?』
「っあ、この人は僕の友達の佐久間敬。部活が一緒なんだ」

一瞬、こちらを見られ怯んだ自分が居たが、健二が自己紹介を勝手にしてくれたのでこちらとしては助かった。すると、秋ちゃんは健二を見た後に俺を見上げるように見てきて「ふーん…」と相槌を打って、俺に改めて体を向けてきた。

『冨永秋です!健二兄さんがお世話になってます!』
「…あ、いえ…こちらこそ」

この子本当に小学生?!となるくらい礼儀が良かった事にビックリ。確か来年の春からこの子は中学生だが、小学生のイメージがかなりガキというイメージしか無かった俺にとってはかなり唖然とする部分があった。しかも、本当の兄妹じゃないのに健二を“兄さん”と呼び、ちゃんとした挨拶をしてくる。兄妹のどっちかがチャランポラン…というよりヘタレだと、どっちかはやはりちゃんとしているみたいだ。
だけど、秋ちゃんは確か人見知りと聞く。初対面の俺にこうして笑顔を向けてくれているが、実際どうなのだろうか。

『実は、佐久間さんの事は兄さんから聞いて若干知ってるんですよ』

と、まるで俺の心を読んだかのようにそう苦笑しながら言った秋ちゃん。なるほど、健二は俺と居る時は秋ちゃんの事ばかりだったから、家でもそうかと思ったが、ちゃんと学校の事も話しているのか。それで秋ちゃんは俺を見てもそんなに引っ込まなかったのか。

「よろしくね、秋ちゃん」
『あ、はい!敬先輩!』
「え、先輩…?」

さっきは佐久間さんと、言っていたが、急に呼び方が変わった。俺がそれに対して首を傾げていれば、「あっ」と何かに気付いたように声を上げた秋ちゃん。どうしたのだろうか、と様子を見てみれば、若干頬を染めた秋ちゃんがこちらを見上げてきた。
くっ…何という不意打ち。可愛いと思いながら秋ちゃんを見ていれば、隣からの寒気を感じた。言わずもがなそれは健二からであり、俺は睨まれている。こ、怖ぇ…コイツ、秋ちゃんの事になるとここまでになるのか?!笑ってるけど笑ってないその表情に俺は血の気が引いてくのが嫌でも分かった。

『えっと、もう直ぐ中学生だし、先輩の方が良いかなって…』
「あ、なるほどね…」

確かに今から身近に居る自分より年上の人を“先輩”と言っといた方が若干良いかもしれない。だけど、それなら健二でもいけるんじゃないか?と思って聞いてみれば、「“兄さん”の方が慣れてしまって呼び難い」と答えられてしまった。それはそれで健二が羨ましいが、やはりここでは健二は役に立たなかったな、なんて失礼ながら思った。

「なら、俺を実験台にして良いからどんどん呼んでよ」
『良いんですか?!』

うわあ!ありがとうございます!とぺこりと頭を下げられてお礼を言われた。くはっ!なんて可愛い事を言うんだこの子は!しかも高校一年生になって“先輩”と呼ばれたのは初めてだ。中学生の時に何となく呼ばれてうわあ、俺先輩なんだとか思ってた時以来だ。うん、なんか嬉しい。切実に。すると、また隣からの寒気。おいおい、勘弁してくれよ…
男の嫉妬は醜いぜ、健二。なんて思いながら俺はそのまま逃げるように帰った。

***

「あー…あの頃が懐かしいぜ…」
『何言ってるんですか、敬先輩』
「今じゃこれだもんなあ…」
『は?』

外で部活に励む生徒達と鳴いてる蝉の声を聞くのが嫌になり、昔の事を思い出してみれば、直ぐに現実へ帰された。
そう、全てが夢だったんじゃないか、というくらいの昔の事に見える。初対面の時は、あ、この子ちょー可愛い。なんて思えて健二曰わくデレデレしていたが、今じゃ、俺を見る目が冷めている。今は夏で熱い筈なのにそんな目を向けられた時は全身に寒気を感じる。そう、例えるなら嫉妬する健二が発するあのオーラとか。

「一年前はあんなに俺に懐いてたのに、何で急に冷めちゃったのかね〜」
『……』

椅子に跨がり、秋ちゃんへと視線をやれば、秋ちゃんは一度こちらを見たと思ったら直ぐに反らしてしまう。あーあ、俺なんかしたっけ…?とか思いながらパソコンへと体を向け直した。あの頃の純粋な秋ちゃんは何処へ…と嘆きながら、キーボードを打ち始めた時だった。

『…だって、構ってくれなくなったから…』
「え――…」

思わず打ち込んでいたキーボードを手が滑ってしまい、余計な文字を入力してしまった。その所為でOZの管理人者に怒られてしまい、「す、すみません!」と画面の外でしかも低姿勢になりながら謝った自分はかなり恥ずかしいかもしれない。直ぐに謝った後、俺は秋ちゃんへともう一度振り返った。すると、彼女は拗ねたように顔を俯かせていた。

『最近、OZのバイトやってから構ってくれないし…』
「あー…」

それは秋ちゃんに申し訳無い事をした。確かに去年までは遊びに行ったりしたが、今年はバイトをやり始めてそんな機会は全く無い。秋ちゃん自身も仕方ないと頭では分かっていたが、やはりどこか寂しい部分があったのかもしれないな。
秋ちゃんの本音を思わぬ所で聞いてしまったが、これはこれで良かったかもしれない。

「秋ちゃん、バイトだから仕方ないかもしれないけど、俺は秋ちゃんが大好きだから」

だから、沢山わがまま言ってきなよ?と、秋ちゃんに向かって手を伸ばして、俯かされた頭を撫でた。それにビックリしたのか、秋ちゃんは目を見開かせながら俺の方を見てきた。いつもみたいな冷めた視線じゃないその目は一年前の彼女を思い出させるようで、何だか嬉しかった。すると、秋ちゃんは顔を真っ赤にして再び俺から視線を外してしまった。

『あの…じゃあ、相談とかのってくれる…?』
「お?あの佳主馬って奴に恋したか?」
『ち、違います!勉強とか!』

顔を若干赤くしながら、否定してくるが、ぶっちゃけ秋ちゃんが長野県に行った時に出会ったあの佳主馬って奴を好いているのは様子からして分かる。やっと秋ちゃん自身に春が来たか、と思っていればまさかの勉強で誤魔化された。
こりゃ気付くのは当分後になりそうだな。あの佳主馬って子も。だけど、大丈夫だよ秋ちゃん。俺はいつでもキミの応援してるから。

恋愛相談や勉強や友達の事でも相談にのってやるから。
キミの先輩として、もう一人の兄さんとして、キミを応援する。だから、ずっと笑ってて。


end


***

まさかのラブマを倒した後の話し(^^;;


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