act.3

言い合って言い合って、先程まで良い雰囲気…とまではいかなかったけど、やっぱりこの空気の方が一番落ち着く関係だった。その内それが可笑しくなっちゃって、怒りや悔しさという物が吹き飛び「っぷ」と噴き出してしまう。何故今噴き出したのか、佳主馬も気になったのか僅かに顔の色が戻っている事を良い事にちらりとこちらを振り返る。

「何…」
『ううん。たださ、佳主馬とのこの関係がやっぱり良いなって』
「は…?」
『喧嘩したり泣いたり、笑い合ったり、忙しい数日間だったけど…私ここに来て良かった。佳主馬に出会えて良かった』

我ながら恥ずかしいセリフを言っている気がする。それでもやっぱり自分の口で、自分の声で、佳主馬に伝えたかった。
どれも本当の言葉。どれも本当の気持ち。この数日間を感情に表すだなんて器用な事出来ないし、語彙力も無いけど、ここに来て、嬉しいと思ったり楽しいと思ったりしたのは事実だから、これだけでも言葉にした。そしたら、佳主馬から返ってきた言葉は「…ふーん」という何とも言えない返事。
ちらりと、佳主馬の方を盗み見てみれば、彼はやっと熱が収まっていた筈なのに、また熱そうに赤くなっていた。分かりやすい奴め、と照れている彼を見ては緩む口元を必死に堪えた。

『また会えるかな、佳主馬』
「…OZをやってたら嫌でも会えるよ」
『それもそっか』

ジリジリと耳が痛くなるような煩い蝉の声。
空には落ちて来そうなくらいの入道雲。
目の前には、笑い合う親戚たちと、複雑そうな顔をする関係者たちの不協和音の雰囲気。
垂れてくる汗。
右手にイカ焼きと、左手にはしっかりと掴まれている手。

今日も炎天下の日。
外は相変わらずの腫れ。こんな中、少女は自分の中で変化のあった感情に身を委ね、掴まれた手を少しずつ動かし、彼と指を絡ませた。

そんな中視線が自然と健二と夏希の方へと向かう。どうやら二人は完全に両想い状態になったらしく、今正に親戚一同で冷やかしの声を上げたり煽てたりしている。
夏希先輩が大好き、と告げた健二兄さんの顔ったら見ているこちらも恥ずかしくなるくらい熱を帯びていた。だけど、夏希先輩も満更ではない顔で一言「嬉しい」と女の私でもノックアウトされるような小さな笑みを浮かばせると瞳を閉じて健二にあの柔らかそうな唇を向ける。
え、うそ!?ここで!?ひゃああ…!と茫然と口を開けていれば、健二は正にキスをしようと唇を突き出すもタイミング悪く鼻血が出てきてしまい、間が悪い空気に。
夏希も呆れたような顔をするも、直ぐに自分から横を向いた健二の頬へと触れるだけ、唇を当てた。
もちろん、キスやほっぺちゅーに耐性のない彼女居ない歴=年齢の健二が平然としている訳でもなく、兄さんは鼻血を大量に出して気絶した。

子ども達が騒ぐように「ダッセー!」が良く似合う。

『う、うわぁああ!夏希先輩が健二兄さんにほ、ほ、ほっぺちゅーした!ひゃー!』

そして、ここにも耐性が無い人物が一人いた。秋はくるりと体を反転させて上昇した頬を冷まそうとする。だが、振り向いた先には佳主馬がおり、今正に自分が意識している異性な為、余計に冷ます事が出来ず、上昇した。思えば彼もその場のノリとは言え、私にもほ、ほ、ほっぺちゅーを…!

「何あれくらいで顔真っ赤にしてるの」
『う、うるさいな…!陣内家ではあれが当たり前なの?!』

ここはアメリカンか何かですか!うううう恥ずかしい…!余裕の顔をしているから余計に佳主馬を見ると恥ずかしい…というか羞恥心を感じてる自分が恥ずかしい!もう何言ってるのか分からない!恥ずかしい!
と真っ赤な顔を見せまいと先程の佳主馬が取った行動と同じように、私も健二兄さん達や佳主馬が居ない方へと顔を背けた時だった。
ちゅっという聞き慣れない音が耳元で響き、頬には一度味わった事のある柔らかさ。
へ、と間抜けな声が出たのと同時に、ひゅーひゅーと冷やかすような声や拍手が響いてきた。

『な、なっ、な…!?』
「今はほっぺちゅーだけで我慢してあげる」

離れる際に、耳元で囁かれたその言葉。中学生の癖に何て言う色気を出しながら、掠れた声でそんな事言うんだ。動揺しない方が可笑しいと思う。
それを証拠にいぼとりと、持っていたイカ焼きを落としてしまう。それを見てハヤテがバッと飛んできては咥えてどこかへ行ってしまう。ああ、私の二本目のイカ焼きが…と嘆く余裕なんて物はもう無くて、私はしばらくショートして動かない頭の中で、ただひたすら言葉集めをしていた。

賑やかで、騒がしくて、葬式って感じよりパーティーって言った方が正しいその日の葬式は、皆が笑顔で過ごしていた。私も健二兄さんも、少しの間でもこの家族の一員としていられた。暖かくて、とても大好きな陣内家に。
親戚一同が健二と夏希の様子を見て笑っていれば、朝顔に囲まれていた遺影に写っていた栄が大口を開けて笑っていた。

それは、瞬きをした瞬間には弾け飛んでしまう泡みたいで、炭酸水のような物語。


end………



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