拓也と雨の中過ごす話 (2/2)
きっかけは何の変哲もなくて、質素で、素朴で、簡易的な展開だった。
外で荒々しく鳴り響く雷雨はまるでこれから天変地異でも起こそうとしないばかりに強く小さな小屋に叩きつけられ、近くで雷すらも落ちた様に響き渡る。
小さな灯はこの小屋全体を照らすには十分ではあったが、「二人」の体を温めるには少し――いや、かなり足りなかった。

――――――………
――――………

無事に純平のスピリットを手に入れ、コクワモン達と別れた後、子ども達は目的である森のターミナルへ向かう途中、ひたすら線路を歩いていた。
他愛のない会話をしながら、延々と続くその線路を歩いていた時である。

ゴゴゴッという音を立てながら揺れる地面が、揺れる度に強くなっていくのが始まりだった。

「な、なに!?」
「地震かぁ!?」
「…!みんな!急いで逃げるんだ!」

焦る子ども達の声が地響きと共に飛び交う中、一際誰よりも大きな声で拓也が混乱する皆へ向けて声を上げた。
一体何から、と言葉にするよりも早く状況を判断する事が出来た。
揺れる地面の中、目の前で崩れていく地面。崩壊し真下へと崩れていくその地面を見て子ども達は一気に血の気が引き慌てて元来た道を戻る様に崩れていく地面の反対側へと駆け出した。

「ま、待って!」
『友樹君!』

先行く仲間たちの中、一人遅れていた友樹に気付き結衣は慌てて彼の手を握りながら走るもそれでも自分の走る速度は足りない。
このままでは一緒にこの奈落の底へと落ちてしまうだろう。息が上がる中、結衣の脚が縺れた。

『っ!』
「結衣さ――」
『友樹君早く!』

転びかけた時、友樹の手を掴んでいた手に力を込め思い切り引き上げる。自分より先へと友樹を前へと出せば酷い痛みが自分の脚に襲った。
走るにもこの痛みでは全力で走る事が出来ない。こんな時に限って捻ってしまったのだ。
踏み込む足に激痛が走り思わず顔を歪めた時にはもう遅く――

ぐらりと変わる視点。見ていた景色がゆっくりと変わり、目の前では友樹の戸惑いの表情。
どうやら迫る穴は結衣の元まで迫ってきていたのだろう。
ゆっくりと下へと落ちていく結衣の体。手を伸ばし、崖の淵へと掴むもその崖も脆く砕けてしまった。

「結衣!!」

「死」という思考が過った時、落ちそうな手を掴んだのは友樹ではなく戻ってきてくれた拓也。
どうやら後一歩の所で崩れは止まっていたらしく、もう地響きも崩れも収まっていた。
ゆらゆらと揺れる体を支える拓也。落ちずには済んだものの、拓也の掴む腕は徐々に下へとずっていく。
歯を食いしばって引き上げようとしてくれているが、どうも苦し気。このままでは拓也も落ちてしまう。

『たく、やくん…』
「待ってろ、今引き上げ――」

つくづく自分の運は向いてくれないようで――
ぐらりと今度は拓也の体も傾いていくのが下からでも確認できた。「今助けるぞ!」という仲間たちの声が響くものの常に遅く、拓也の体は崖から離れてしまい、やがて二人して浮遊感を味わう。

落ちてしまった――

仲間たちの腕を掴む事が出来ず、二人はそのまま崖の下へと落ちてしまったのだった。

―――――――…………
―――――………

『うぅ…、ここは、』
「っつ、…結衣、大丈夫か?」
『拓也君、…うん、何とか…』

痛みの衝撃に思わず呻き声が出てしまうが、どうやら拓也と一緒に落ちてきてしまったらしい。
頭上を見上げると遥か遠い所に小さな光だけ。自分の体の下にはどうやら藁やら草が積まれた場所。これが自分達の体を受け止めたクッションとなっていた訳だ。
起き上がろうとした時、何かが自分の体に乗っているのに気付き、体の上を見てみればそこには自分の体に巻き付く拓也の腕。

『えっ…』
「ん?どうし…た……!!わ、悪い!!」
『い、いえ、』

拓也も漸く自分のしている状況に理解したのか、バっと離れる。
互いが互い、男子女子の耐性が無い故に顔を紅くしながら一定の距離を保つ。拓也は背を向けながら頬を掻くと先に、と立ち上がる。

「ず、随分と深い所に落ちてきたみたいだな、」
『う、うん。でも良かった奈落の底じゃなくて。…森、なのかな』
「みたいだな、」

どこかぎこちなくも、何とかこの状態を打破しようと会話を続ける。
辺りは一面木々だらけ。暗い森の中ではありながら辺りを見回せられる程暗くはない。ほんのり自分達の姿が見える所を見ると光はあの遠くから見える光が照らしてくれているのだろう。
それにしても、である。
拓也の言葉通り深い所まで落ちてきてしまった。ここで仲間たちの迎えを待つか、自分達が仲間たちの方まで向かうか、少なくともじわじわと痛みを主張する足が迎えるのにも限りがある。

「仕方ない、何とかしてアイツ等と合流しないとな…」
『うん、そうだね。…っ、』
「?…どうした?」
『あ、…ううんなんでもないよ』

早く立たなければ。こんな事で拓也の迷惑に掛けられない。冷や汗が止まらない中、ゆっくりと立ち上がる。そこで漸く息を吐いては自分を待ってくれている拓也の方へ一歩一歩足を踏み出す。
しかし、捻った足へと自分の体重を掛けた時、その痛みがまるで全身に響く様に進むのを邪魔をする。激痛に顔を歪め、思わず力が抜ければぐらりと体が傾き地面へと膝を着きそうになった。

「結衣!…本当に大丈夫なのか?怪我したんじゃないのか?」

地面に衝突してしまう途中、伸びてきた赤に止められる。途中で遮られた重力はそのまま赤へと掛けてしまうが、お蔭で更に負傷する事は無かっただろう。改めて自分を支えてくれたであろう拓也へと顔を向けた。

『拓也君、…ごめん、ありがとう。ちょっと足を挫いちゃったみたいで…。でもこれぐらい大丈夫だから――』
「ばか!こんな状態で大丈夫な訳ないだろ!…どこか休める場所は、」
『…ご、ごめん。でも休まなくても、』

大丈夫だと伝えようとした時、近くにあった拓也がむっと眉を寄せた。
しまった、怒らせてしまったか。
それもそうだろう、挫いておいて先程も自分の体重を支え切れずこうして拓也に支えて貰っている。正直な所この足が長時間動かし続ける事は出来るか尋ねられたらはっきり言おう、無理であると。それでも大丈夫だと出てしまう口は最早癖になりつつある。
迷惑を掛けられない。それは本音である。未だ自分だけスピリットを持たず、こうして仲間たちのお荷物になっているからである。だからこそ自分だけ迷惑をかけてはならないと、胸に秘めていたのに。
拓也の目は結衣のそんな弱音も、決心も見透かしてさせまいと制止を呼びかける。
その目を見て結衣は大丈夫という言葉を飲み込み、こくりと小さく頷いた。

『…本当は、結構痛むの。ゆっくりなら歩けるけど、長時間ってなると少し難しい、です』
「…んっ。それでいいんだよ。迷惑だとか考えるなよ?…みんなが迎えに来てくれるのを信じてさ、どこかで休もうぜ」
『うん、ありがとう。』

本音をぽつりと呟けば拓也は寄せていた眉を戻し満足げに頷いた。
お見通しだったのだ、迷惑だと感じるのも、強がりで出た言葉というのも。彼には全てお見通し。
だが、そのおかげで結衣の中でどこか救われた様にも感じられた。

「休み休みながら行くけどさ、少し歩けるか?」
『うん、…あの、肩貸して貰ってもいいかな、』
「おう、そのつもり」

少しだけ甘えてみよう。変に意地を張らず、今だけは。
拓也の肩に自分の腕を回し、拓也もまた結衣の体を支える様に腕を回す。隙間なくぴったりと互いの体が密着する事で改めて自分のお願いした事は恥ずかしくて居た堪れないものだったが仕方ない。不可抗力とはいえ頬に集まる熱がばれない様に視線は少し下に向けて歩き始めた時だった。

ぽつ、と自分の鼻に雫が跳ねた。
ぽつぽつ、今度は頭に、頬に。冷たい雫が自分の顔を濡らしていった。

『え、…?』
「…雨、か?」

思わず歩みを止めて二人して上へと顔を向ける。
暗く空の顔色も伺えないが、頬を打つ冷たい雫を見て天気の方は良くない様にも見えた。
これは早めに避難する場所を探さなければならないな、と思われた矢先。それを読んでいたのか、頭上から降り始める雨は徐々に激しくなっていき、やがてバケツに入った水を逆さまにした時の様に降り始めた。

「なんなんだよ…!このままじゃ風邪引いちまう…!」
『早く雨を凌げる場所を…って、た、拓也君!?』
「こっちのが早く動けるだろ!」
『だ、だからと言って、!』
「いいから!喋ってると舌噛むぞ!」

隣でこの事態に嘆いていた拓也。困ったと口にする結衣が歩き始めようとした時、自分の体はふわっと浮かんだ。いや、浮かんだと言うより自分の体は持ち上げられたのだ。
気付けば違う意味で近くに見える拓也の顔。女の子の誰もがお姫様に憧れ、更にそんなお姫様を抱き上げる王子様に憧れただろう。所謂、結衣は拓也に横抱きならぬお姫様抱っこをされたのだ。
唐突な出来事に一瞬理解出来なかったが、理解した時にはもう既に彼は駆け足に地面を駆けていた。
振り落とされない様に必死に拓也へと引っ付きつつ周りを見渡した。

打ち付ける雨を体で感じながらも雨を凌げられる場所を探す際、引っ付いている間ずっと拓也の胸元はどくどくと早鐘を打っていた。


「ふぅ〜何とか小屋があって良かったぜ…しばらく雨を凌げる筈だな」
『拓也君ごめんね、重かったでしょ…』
「ん?気にすんなよ。俺結構体力ある方だし」

運よく小屋があり、今拓也と結衣はその小屋へと入り何とか雨を凌ぐ事が出来た。
随分と雨水を吸っていたのか、お互いの服は随分と重く滴り落ちていた。被っていた帽子を脱ぎ絞ってみれば随分と水が垂れて来る。

『…、さむ、』

いや、ここで我儘も言ってられない。雨で濡れた体は随分と体温が落ちていたらしく、寒気により震えが走る。しかし小屋の中は小さな暖炉とぽつんと置かれた木製の椅子。濡れた体を拭けるようなタオルもせめてフェイスタオルの大きさ。冷えた体を温める毛布も一枚きり。

「背に腹は代えられない、か。」
『拓也君…?』

ぼそりと呟く彼の言葉はこの暴風と暴雨により上手く聞き取れない。振り返れば彼は、ぽつんと置かれていた椅子を見ては手にかけいとも簡単に壊してしまった。

『た、拓也君!?それ大丈夫なの…?』
「仕方ないだろー?それにこの小屋随分と長く使われてないみたいだし、物が一個無くなった所で誰も気にしないって」

仕方ない。それは確かにそうなのかもしれない。結衣は協力しようとするが、痛む足により阻止されそういえば自分は今怪我をしているのだと思い出した。大人しく椅子を破壊する拓也の背中を眺めつつ、近くにあった毛布に手を伸ばしては膝たちに溜まっている埃を軽く払った。

『!?げほっ、げほっ、』
「ん?っぷ、あはは、何してんだよ結衣」
『んん、埃が…』
「っま、そんだけ埃が堪ってりゃ誰もこの小屋には触れてないってことだな」
『みたいだね、…っくしゅ、』
「早く火を付けよう、このままじゃ本当に風邪引いちまう」

よし出来たと、椅子を破壊し終えた拓也がそれらを両腕いっぱいに持ってくるなり、暖炉に放り込む。さて、これで燃やす物も出来た訳だが…燃やす為の火はどこから持ってくるのか。
毛布を他所に置きながらきょろきょろと見回した時、その木を運んできた拓也が徐にデジコードに身を隠した。
驚きの表情を浮かべる結衣を他所に、アグニモンへと進化をした拓也はそのまま自分の拳に炎を宿すとそのまま暖炉へと向けた。

「“バーニングサラマンダー”」

少し控えめな炎が暖炉の中へと飛び込むなり木はそのまま燃え始める。
成程、アグニモンの炎で火を付けた訳か、と納得すればアグニモンはそのまま拓也へと戻って行きふぅ、と息を吐く。

『…ふふ、便利だね』
「伝説の無駄遣いだとか言われそうだけどな、ボコモンとかに」
『確かに言われそう』

くすくすと笑いながら暖炉の前へ近づく。何とか体をこれ以上冷やす事は無さそうだと安心すれば、ふと先程見つけたフェイスタオルが自分の目の前に。視線を送れば拓也がそのフェイスタオルを持っており、彼自身もまたそのタオルを肩にかけている。

「少しでも水気取っておこうぜ、」
『うん、ありがとう』

そのタオルを受け取り、体を拭く。服や髪に染み付いた水気はぽんぽんと軽く当てながら取って行った。十分ではないとはいえ少しでも水気が無くなれば、その濡れたタオルは念のためと自分の挫いた方の足へと強く結び圧迫。これで少しはマシになるだろう、ふぅ、と息を吐いていれば少し離れた隣へ拓也が腰を下ろした。

『そうだ、毛布。』

埃を払ったばかりの毛布の存在を思い出した。ぐ、と引っ張っては大きく広げれば、結衣は拓也の方へと顔を向ける。

『拓也君、一緒に温まろう』
「へ!?」
『じゃないと風邪ひいちゃうよ』
「い、いや、俺はその…っ、」

じっと暖炉の炎を眺めていた拓也へと声を掛け、そう提案してみれば彼は分かりやすい程に肩を揺らし更に頬を染める。明らかに動揺する彼の反応に、結衣も吊られて頬が染まり自分が取んでも発言したのを改める。

「結衣が使ってていいぞ!俺はだいじょ――は、はっくょん!」
『拓也君…、』

見る限り彼の体も震えており、思えばここまで拓也には至れり尽くせりと言った所か、崩れる地面から助けようとして、足を捻った結衣を支えてくれたり、こうして体を冷やさない様に散々尽くしてくれている。
流石にそこまでされて、毛布も独り占めする訳にはいかない。
拓也が来ないのなら、と結衣は膝を付きながら彼へと歩み寄り持っていた毛布を自分と拓也へと掛けた。

「なっ、結衣!?」
『風邪引いちゃダメなんでしょ?これならあったかいし、せめてこの雨が止むまでこうしてよ』

今更緊張する、なんて言って体を壊したらこの日の事を後悔してしまう。
ぴたりと再び体がくっつくと、拓也は再び頬を染めるがすぐに視線を逸らし「わかった、わかったから」と観念した様で自分にかかった毛布の端を掴み拓也自身包んだ。
良かった、少し強引だったがこれで拓也も体を冷やす事は無い。結衣は安堵の息を吐き、再度木を燃やす暖炉を眺める。

「…足、大丈夫か?」

しばらくその場に沈黙が流れたと思いきや、不意に拓也がその沈黙を断ち切る様にそう口にする。その言葉に、ハッと我に返れば小さく口元を緩める。

『うん。拓也君が支えてくれたおかげで、足の負担は無かったから。多分すぐ良くなるよ』
「そっか、それなら良かった」
『うん。ありがとう』
「ん、」

と、ここで再び訪れる沈黙。結衣は挫いた方の足を優しく摩りながら炎を眺め始める。

「…この前もさ、あんな事があったんだよ」
『え?』
「地面が崩れるって事。ほら、泉とどっちの道に行くかって話になって俺と友樹が別の道に行っただろ?」
『うん、あったね』
「あっちは行き止まりだったって言ったけどさ、実はさっきみたいに地面が突然崩れてさ。進みたくても進めなくなったんだよな」
『そ、そうだったんだ…。良かった、二人が無事で』

何故地面が崩れたのかは原因は分からないが、今後もこういう事があるのかもしれない。気を引き締めないといけない。
軽く身を捩る。それにより拓也の肩が僅かにぴく、と反応するが気にせず更にを縮める。

「…まだ、寒いか?」
『ううん。そんな事ないよ、あったかい』
「そ、そうか。」
『…迷惑、かけてばっかりだなぁ、』
「え?」

畳んでいた膝に顔を埋めて、ぽつりと小さく呟く。その言葉をすぐ近くにいた拓也の耳には届いており、拍子抜けた顔を思わず彼女に向ける。

『ごめん、やっぱりどうしても感じずにはいられないっていうか、足引っ張ってるなぁって…。さっきだってもう少し走れたらこんな事にならなかったし、拓也君もこんな目に遭わなくて良かったのになぁ』
「……俺は、」

あまりにも足を引っ張り過ぎて、結衣は顔を上げられず肺が押し潰される思いをしつつも言葉を続ける。溜めた息を吐きそうになる際、拓也は結衣から視線を暖炉の方へと向ける。

「俺は、お前の手を掴んで良かったと思う。」
『え、』
「お前はさ、頼るの苦手だよな。けどさ、そんなお前からさっき頼られた時嬉しかったし、本音が聞けて良かったなって思った。だから、こうなるのも悪くはなかったかもなって思ったぜ」
『…頼るのが苦手、か。』
「ん。俺は、お前の事迷惑だなんて感じた事はないよ、壁を感じる事は結構あったけど」
『うっ、人見知りってのもあるかもだけど、』
「俺はお前を守ってやりたいって思った。そこに迷惑とか、そういうのは無い。それともお前は俺のその思いを否定すんのかー?」
『…その聞き方はずるいよ、』

思わず笑みが零れてしまったのは恐らく拓也の言葉のお蔭だろうか。
顔を上げ埋めていた膝に自分の頬を乗せ拓也の方へと向けた。

『ありがとう、拓也君』
「っ、お、おう、」

そんな出来事が小さな小屋の中でありつつ、雨が止むまで拓也と結衣は他愛のない話をし、気付けば二人寄り添う様に眠っていた。
いつの間にか乾いていた服。そして、打ち付けていた雨と風は止んでいきやがて太陽の光が窓に差し込んできた頃、二人は目を覚まし小屋から外へと出て行く。

「晴れたな」
『うん。…私たちがいたところ、崖だったんだ。』

明るくなり、改めて周りを見渡しよく見てみる。近くには随分と高い崖。どうやら自分達はこの崖から落ちてしまったらしい。
しかし、それだけ分かっただけでも良かっただろう。

「足はどうだ?」
『もう大分平気だよ、一人で歩けるようには回復した』

なら良かったと拓也は安心したように笑みを浮かべる。その笑みに結衣は不意に頬が染まり胸が高鳴るのを密かに感じていた。

「拓也―!」
「結衣―!」
「拓也お兄ちゃーん!結衣さーん!」

「この声は…」
『!泉ちゃん、純平君、友樹君!』

ふと響き渡るその声は、二人もよく聞き覚えのある声。どこからだと辺りを見回してみれば、その先程見ていた崖からフェアリモン、ブリッツモンが友樹、ボコモン、ネーモンを抱き上げながら此方に下降していた。

『良かった、捜しに来てくれたんだ』
「あぁ。おおーい!ここだここー!」

友樹たちは空を飛びながら周りを探す様に見渡している。まだ見つけて貰えてないと分かれば此方も声を張り上げながら彼らを呼ぶ。
すると、その声に気付いたようでブリッツモン達は直ぐに二人を見つけられる事が出来、真直ぐ此方へと飛んでくる。それを見て、一安心だと安堵の息を吐いた時、結衣は拓也の方へと視線を向ける。

『…拓也君。』
「ん?」

仲間たちが此方に駆け寄る前に、彼へと声を掛ければ今度は体事彼へと向ける。拓也もそれを見て結衣の方へと向き直る。
結衣は一度顔を俯かせてから、再度顔を上げ笑みを浮かべた。

『さっき“私の手を掴んで良かったと思う”って言ってくれたよね。…私もそう思う。』
「え…?」
『…私も。手を掴んでくれたの、拓也君で良かった』
「ッ!?」
『だから、ありがとう』

今日何度目か分からないお礼を口にした時、意外にも早い物でフェアリモン、ブリッツモン、友樹たちが到着した。
無事で良かったと喜び合う仲間たちの側らでは…顔を真っ赤に染めた拓也は口をパクパクと金魚の様に動かしながら結衣を見つめていたとか。



*****

未由世様リクエストで、未完成開拓者の拓也夢でした。
随分と短編を書いていないという事が身に染みて分かりました。(最早短編ではない…)
シチュエーションはお任せ、という事で本編にあまり影響が無いレベルで、夢主がスピリットを手に入れる前に起きていた出来事を書いてみました。
未由世様、リクエストありがとうございました。




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